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No.141 リニアックの遮へい計算での方向利用率

方向利用率とは何ですか?

記事作成日:2011/02/26 最終更新日: 2022/12/20

最大条件に対する一次ビームがある方向に照射されうる比

一次ビームの安全評価では、全体の使用量(時間あるいは線量として許可条件で与えられている)に対して、
ある面に
・一次ビームが照射されうる割合
を用いてそれぞれ計算します。

この割合のことを「方向利用率」と呼んでいます。

「方向利用率」の「率」は「rate」ですか?

「率」と称していますが、科学的な用語での「rate」(=単位時間あたりのイベント数)ではありません。
最大方向利用比と考えるとよいでしょう。

しゃへい計算マニュアルの計算例の設定の考え方

最大照射方向の方向利用率を1として、その他の方向の一次ビームの照射時間あるいは照射した線量を、最大照射方向に対する比で示しています。
最大照射方向では最大限に設定しており、それに対する相対的な利用割合がしゃへい計算マニュアルで示されている方向利用率になっています。

各方向の「方向利用率」を合算することは意味がありますか?

定義から想像されるように各方向の方向利用率を単純に加算することは意味がありません。
マニュアルの例では、下向き1+上向き0.5+横向き各方向0.25×2=2となりますが、定型的な照射パターンがのみ想定される場合に、安全係数を考え、方向の重複がありえるとしても、この加算値が1.2など2以外の値となることがあります。

床方向の方向利用率が1以外の値になることはありますか?

全使用時間が10時間として床強度が5時間の照射線量に相当する強度しかもたない場合には、取り得る床方向利用率は0.5となります。
マニュアルにも必要に応じ下向きを1.0未満に設定することを検討すると記述されています。

事後評価で床方向の方向利用率が1であった場合、他の方向の利用記録はどうなっているべきですか?

床方向に1照射すれば、他の方向は照射ができないことになります。
許可を受けた照射時間(線量)を超えることはできません。

方向別にどの程度使用できますか?

放射線施設のしゃへい計算実務マニュアルの10MVのリニアックの例で、T=12時間/月とすると、トータルで12時間を越えなければ、それぞれの方向に着目すると、最大で1月間に、下12時間、上6時間、横それぞれ3時間、照射してもよいですか?

トータルで12時間を越えなければ、構いません。
遮蔽計算では、線源から見える面は、利用線錐で照射された場合と照射ヘッドからの漏えい線量の加算で評価しています。
最大で下12時間、上6時間、横それぞれ3時間出しても利用線錐方向の線量は、限度を超えないことが担保されています。
従って、トータルで12時間は越えなければ照射ヘッドからの漏えいや迷路散乱中性子の線量も線量限度を超えていないことを担保することができます。

方向利用率が、下:1、上:0.5、横:0.25である場合に、全体で1+0.5+0.25だけ照射できるとして、上向きの最大では1/(1+0.5+0.25×2)の割合で照射できるという理解は誤りです。
ここでの方向利用率は、許可された使用時間に対し、それぞれの方向にどれだけの時間最大限照射しうるかを示すものです。

最大で下12時間、上6時間、横それぞれ3時間出しても、トータルで12時間は越えていなければOKとありますが、少しでも超えてはならないのでしょうか?

壁方向の一次ビームは、その条件で計算しており質問の状況は想定内になります。
一方、照射ヘッドからの漏えい線量や迷路散乱X線や中性子線は、どのように考えて評価しているかに依存します。具体的な場合で計算されてみてはいかがでしょうか。

総使用時間(線量)の管理…(条件1)
(A)100時間/3月、8時間/週
下向き1.0、上向き0.5、左右向きそれぞれ0.25の場合、
方向利用率の管理…(条件2)
(B)下向き:100時間/3月、8時間/週
上向き:50時間/3月、4時間/週
左右向き:25時間/3月、2時間/週

である場合は、

(1)100時間/3月、8時間/週
(2)下向き:100時間/3月、8時間/週
(3)上向き:50時間/3月、4時間/週
(4)左右向き:25時間/3月、2時間/週

※(1)~(4)まですべての条件を遵守すること

どのような量を計画内とする必要がありますか?

(1)各方向の合計が最大使用量を超えていないこと
(2)各方向の使用量がそれぞれの方向で設定した上限を超えていないこと
が求められます。

回転照射する場合、方向利用率を設定するのがよいでしょうか?

寝台に垂直なある面で360度回転して照射する場合には、床、左壁、天井、右壁への照射を考える必要があります。
回転中心から見える角度で床が最大であれば下向きを1とし、その他の面は、それぞれが見える角度の大きさを相対的に表現すればよいでしょう。
もっとも安全側になるのは、全ての面を1とすることです。
全ての面を1とすると過剰な防護となり、そのコストの増加が容認できない場合には最適化を考えることになるでしょう。

関係資料

日本放射線腫瘍学会 Japanese Society for Therapeutic Radiology and Oncology

診療用高エネルギー放射線発生装置の放射線障害防止法・医療法に基づく放射線管理の徹底に関する報告書

清水建設

小迫 和明.医療用リニアック室の遮蔽壁の設計と評価
防護の最適化が議論されています。