線量計などを装着していない人々の被ばく線量を被ばく後に評価する手法には、
①臨床症状からの推定法
②リンパ球培養後に染色体標本を作り、不安定型染色体の頻度から調べる方法(細胞遺伝学線量推定法)
③放射線により誘導された歯のエネメル質に残存するラジカル量から推定する電子スピン共鳴法などがある。
①の手法は簡便であるが個体差や推計自体の誤差も大きいため、②や③の客観的な推計法による裏付けが必要である。
放射線は、原子の近傍を通過する際に電子軌道のペアの電子のうち、片方をはじき飛ばし、不対電子を生成する。不対電子の量は、放射線のフラックスの密度に比例するため、不対電子の量を測定できれば、逆に放射線の線量を推定できる。不対電子は、磁場におかれると磁場強度の大きさに従い、そのエネルギー準位が分裂(ゼーマン分裂)する。そこにエネルギー準位の幅に相当するエネルギーをもつ電磁波を照射すると、不対電子はこのエネルギーを吸収する特性がある。そこで、電磁波を一定にして磁場強度を変動させると、電磁波エネルギー吸収のスペクトルが観察できる。このスペクトルの高さより被ばく線量を計測する手法が、ESR(Electron spin resonance, EPR:Electron paramagnetic resonance)線量計測法である。従来のESR(EPR)法は、抜歯後にエナメル質を剥離し、試験管内で発熱作用の強いXバンド・マイクロ波を用いて測定した。しかし、この方法では抜歯が不可欠であり、被災者や第一対応者のスクリーニングには不適切であった。米国ダートマス大学で、口腔内の歯にたいして発熱作用のないLバンド・マイクロ波を照射して計測するESR機器が開発された。本研究は、ダートマス大学のシュワルツ教授らの協力を得て、Lバンド生体内(in vivo) ESR(EPR)装置の開発を目指す。