装置の操作およびESR(EPR)データ解析に習熟するため、山口が1ヶ月間ダートマス大学に滞在し、シュワルツ教授の下でトレーニングを受けた。
装置が完成した後、研究計画を科学院の倫理審査にかけ、認可を受けた後、ボランティアから抜歯した歯の提供を受け、段階的に照射しつつESR(EPR)のスペクトルをとり、ex vivoでの検量線を作成した。
図.歯の計測
歯芽を50KV、150KVのX線、Co-60ガンマ線(以上各4本の歯芽)、および10MVの治療用電子直線加速器(3本の歯芽)で段階的に照射した。0KV、150KVのX線は本院のX線装置、Co-60ガンマ線は東京都立産業技術研究センターの照射施設、10MVの治療用電子直線加速器は茨城県立医療大学の装置を用いた。
図.0.5Gy(3秒の50回スキャン)
図.2Gy
図.5Gy(3秒の60回スキャン)
下図は150KVのX線照射した場合の検量線である。
図150kVのX線で照射した歯のESR(EPR)
スキャン幅:25G、変調磁場:4G、スキャン時間: 3-30秒、スキャン回数: 50-90回とし、計測を3回繰り返した。
EPR信号の大きさは参照として用いたPDT (Perdeuterated (15)N-Tempone)のピーク間の振幅の大きさを1とし相対的な大きさで示した。
歯芽の数が少ないため、未だSDが大きいが、今後サンプル数を増やして検討を重ねる。
ESR(EPR)シグナルの生成効率は、放射線のエネルギーに依存しコバルト60のγ線では、診断用X線に比し約1/4であった。
シグナルの弱さは、スキャン回数を増やすこと、サンプルの体積を増やすこと(上下の歯を同時測定)等により補うことができるが、その場合には装置の安定性、S/N特性が鍵となる。
歯科診療を受けた患者さんからの歯が多いため、in vivo ESR(EPR)測定に及ぼす歯科診療での照射や詰め物の影響などを引き続き検討している。
最終的には、口腔内での5分計測で1.5~2Gyの感度を確保するために改良を進める予定である。
2014年での現状
改良が積み重ねられたことで、当初の目的が達成された可動式の装置が本院で利用可能となっており、さらに現場での経験を積み重ねることを計画している。
150kVのX線で1Gy照射した歯の3秒スキャンを20回繰り返して得た信号
150kVのX線で1Gy照射した歯を見分けられるかどうか?
1Gy_check.pptx
(確認の仕方)
- 10Gy.jpg.pdfのファイルは10Gy照射した試料での信号を示します。赤い四角で示しているのが信号です。信号は、赤い四角内での連続的な変化(他の範囲とは異なる「傾き」としてあらわれます)両端にあるのは標準物質による信号です。
- 2Gy.jpg.pdfのファイルは2Gy照射した試料での信号を示します。
- 1,2,3,6,8,9,10のファイルは、1Gy照射したものと照射したものが混ざって
います。この中から1Gy照射したと思われる試料を選んで下さい。
これまでの測定例
口腔外科領域の放射線治療を受けた患者さんやIVR(Interventional radiology)に従事されていた放射線科医【その後の検証で歯科の審美治療の影響による信号であることが確認されました。情報が誤っており申し訳ございません。】から提供された歯からESR信号を検出している。
被災動物での測定例
東日本大震災福島第一原子力発電所事故の被災動物の歯を用いた電子スピン法による被ばく線量評価法の確立
検出された信号が福島第一原子力発電所事故で放出された放射性物質からの放射線によるものがどうかはさらに吟味が必要だと考えられます。
紹介例
放射線事故医療研究会
Lバンド in vivo 電子スピン共鳴装置 ― 事後的個人被ばく線量評価におけるもう一つの選択肢
日本電子スピン共鳴学会
歯での放射線の減弱
30keVの細いビームの光子
電波暗室での測定
装置の搬送
成果発表
書籍
Inoue K, Yamaguchi I, Natsuhori M. Preliminary study on electron spin resonance dosimetry using affected cattle teeth due to the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident. In: Fukumoto M . (Ed.), Low-Dose Radiation Effects on Animals and Ecosystems: Long-Term Study on the Fukushima Nuclear Accident. Springer;2019, Print book ISBN: 978-981-13-8217-8 / eBook ISBN: 978-981-13-8218-5論文
研究報告書
労災疾病臨床研究事業費補助金 緊急被ばく医療が必要とされるような事故発生時におけるトリアージのための線量評価手法の確立に関する研究(平成 27 年度 総括・分担研究年度終了報告書)
広島大学原爆放射線医科学研究所・長崎大学原爆後障害医療研究所・福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センター
電子スピン共鳴法を利用した医療従事者の被ばく線量評価.共同利用・共同研究課題 / トライアングルプロジェクト 研究成果報告集 2020年度報告書 145-146 2021年9月
人の歯を用いた被曝線量測定装置の開発.共同利用・共同研究課題 / トライアングルプロジェクト 研究成果報告集 2020年度報告書 148-148 2021年9月
障害者歯科放射線診療における医療従事者の線量評価.共同利用・共同研究課題 / トライアングルプロジェクト 研究成果報告集 2019年度報告書 126-126 2020年9月
人の歯を用いた被曝線量測定装置の開発に関する研究.2019年度報告書 122-123 2020年9月
平成30年度 協働利用・共同研究課題トライアングルプロジェクト研究成果報告集:歯を用いた ESR 被曝線量測定装置の開発
実用化推進
研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)
平成25年度第1回 【FS】探索タイプ
電子常磁性体共鳴 (EPR) 生体放射線被曝線量測定用口腔内共振器の開発