Q.放射線で空気中に生成されるラジカルは危なくないのですか?
空気中に生成される物質
空気中には放射化物以外にもオゾンや二酸化窒素が生成されます。
これまでの安全管理の考え方
医療用電子加速器でのオゾンや窒素酸化物生成の管理に関しては、30 MeV以下の電子線であれば特別な配慮は不要とされてきました[1]。
生成されるオゾン濃度の推計
改めて生成されるオゾン濃度を推計してみましょう。
加速器でのオゾン生成のG値(単位電離エネルギー(100[eV])あたりの生成量)は、6 molecule/100 eV [2]7.4-10.3 molecule/100eV [3]、とされています。
装置の線量率は、治療用加速器のビーム内を2.8Gy/minとし、照射時間は、全国の医療機関の使用承認時間の中央値104時間/3月であることから、1日照射時間を96 minとすると、その空気カーマは、268.8Gyになります。
空気の密度はを、1.2kg/m3ですからとすると、この空気で単位体積あたりに与えるエネルギーは323 J/m3となります(水に与えるエネルギーになっていたのを修正しました)。
オゾンのG valueを 8 molecule/100 eV(=4.99E+17 molecule/J)とすると、生成されるオゾンの量は、1.61E+20 molecule/m3となります。
生成されたオゾンのモル数は2.68E-04 mol/m3となります(Avogadro constant: 6.02E+23 molecule/mol)。
従ってオゾン濃度は、5.99 ppmとなります。
従って、加速器運転中のオゾン生成率は520.06 ml/m3/minになります。
運転時間比を0.2とすると、平均のオゾン生成率は100.01 ml/m3/minになります。
ここで、換気回数を10回/1時間とし、オゾンの分解時間を5時間とすると、オゾン除去(拡散+分解)実効時間は約6分となることから、ビーム内のオゾン濃度の定常値は60 7ppmとなります。室内全体を考えると、ビーム外の生成量は3桁以上低いため、0.1ppmは超えないと考えられます。
参考情報
事故事例
四本圭一「オペレーターの心得?」Isotope News 〔No.653〕2008年 9月号
オゾンの発生量が多い例
拡散サンプラーを用いたオゾン測定法
Uchiyama, S.; Otsubo, Y. Simultaneous Determination of Ozone and Carbonyls Using trans-1,2-Bis(4-pyridyl)ethylene as an Ozone Scrubber for 2,4-Dinitrophenylhydrazine- Impregnated Silica Cartridge. Analytical Chemistry 2008, 80, 3285-3290.
Uchiyama S, Inaba Y, Kunugita N. A diffusive sampling device for simultaneous determination of ozone and carbonyls.Anal Chim Acta. 2011. 691(1-2):119-24.
家庭用オゾン発生装置
[1]医療用加速器使用室遮蔽計算指針委員会. 医療用高エネルギー加速器使用室に対する遮蔽計算指針,日医放会誌、28,622−634,1968
[2]http://www-ps.kek.jp/jhf-np/hadronbeam/technical_report/hblproc/node87.html
[3] http://www.slac.stanford.edu/cgi-wrap/getdoc/slac-pub-2470.pdf
謝辞
この記事は、末吉眞人様よりご指摘を頂き、計算の誤りを修正しています。ご指摘に感謝申し上げます。