Lung cancer trial results show mortality benefit with low-dose CT
「低線量CTによる肺がん検診は死亡率を低減させる」

米国国立がん研究所による大規模試験で、胸部X線による検診と比較し低線量X線CTによる検診は肺がん死亡を20%低減させるとの結果が得られました。

胸部X線による検診と比較し低線量X線CTによる検診は肺がん死亡を20%低減させます。

異なる主張をしている研究例

Gao W, Wen CP, Wu A, Welch HG. Association of Computed Tomographic Screening Promotion With Lung Cancer Overdiagnosis Among Asian Women. JAMA Intern Med. Published online January 18, 2022. doi:10.1001/jamainternmed.2021.7769

米国国立がん研究所 (NCI)は2010年11月4日に、早期発見により肺がん死亡を低減させることの実証を目指したがん検診の大規模試験での最初の結果をプレスリリースしました。

National Lung Screening Trial (NLST)は、無作為割り付けによる米国での臨床研究です。対象者数は5万3千人以上で、対象者は55歳から 74歳ヘビースモーカーないしはヘビースモーカーであったもので、2つの肺がん検診方法として、低線量X線CT検診と標準的な胸部X線による検診の死亡率低減効果を比較しています。その結果、低線量X線CT群では肺がん死亡が20%少なかったことが見いだされました。
NLSTは、米国国立衛生研究所(NIH)の一つの部門である米国国立がん研究所 (NCI)の資金により行われた研究で、American College of Radiology Imaging Network (ACRIN) と Lung Screening Study groupにより実施されました。NLSTの研究デザインとプロコールが記述されたNLSTの研究チームによる “The National Lung Screening Trial: Overview and Study Design”は、2010年11月3日にRadiology誌で発表されています。

「この大規模でよくデザインされた研究は、科学的な厳密な方法を用いて、リスクが高い被験者にがん検診を行うことで肺がん死亡が減らせるかどうかを調べるものです」と、NCI所長である Harold Varmus博士は語りました。「米国や世界中で、がんの中で肺がんの死亡率が最も高く、20%の低減であっても、有効性が検証された低線量X線CT検診は、この疾患から相当数の人々を潜在的に救い得る可能性を秘めています。しかし、だからといって、タバコ対策が不要になったというわけではありません。タバコが肺がんや他の疾患の主要な原因であることには違いはありません。」

NCIによるNLSTの初期の結果の発表は、この研究の独立した「データと安全性監視委員会 (DSMB) 」が、NCI所長に対し、これまでに集積したデータが、この研究の基本的なリサーチクエスチョンに対して、統計学的に信頼できる答えが得られたので、この研究を終了すべきであると伝えた後になされました。より詳細な結果に基づくより深められた分析は、数ヶ月後にpeer-reviewed journalで刊行できるように準備されるでしょう。NLSTの参加者のそれぞれには、研究で得られた知見が研究遂行者から伝えられています。研究の参加者へのお知らせの手紙やDSMBの手紙は、ここで参照できます。
2002年8月の開始以来、NLSTは、約53,500人の男女の参加を全米の33の試験サイトで20ヶ月の期間、受け入れてきました。この研究への参加の要件は、少なくとも30箱・年の喫煙歴があり、喫煙者か喫煙経験者で、肺がんの臨床症状や罹患歴がないものでした。 箱・年は、一日の平均喫煙箱数と喫煙年数の積を示します。

参加者は無作為に、低線量のヘリカルX線CT検査か標準的なX線検査に割り付けられ、それぞれ年一回の検診を3年間行いました。ヘリカルX線CT検査は、X線を用いて、7から15秒の息止めの間に肺全体の複数断層を得ます。標準的なX線検査は一秒に満たない息止めで画像が得られますが、得られる画像は肺全体の一枚のみで、解剖学的な構造は重なって得られます。これまでの研究では標準的なX線検査による肺がん検診の有効性を検証できていませんでした。

この研究への参加者は、参加時と参加後1年、2年に肺がん検診を受けました。その後、参加者は5年間フォローアップされ、全ての死亡例が記録されました。死亡例では肺がんが死亡の原因であったかどうかが注意深く検証されました。2010年10月20日にDSMBが最終会合を開催した際に、低線量ヘリカルX線CT検診群では、354 人の肺がん死亡例があり、標準的なX線検診群の肺がん死亡が442人であったのに対し、有意な低減が確認されました。DSMBは、20.3%の低減が統計学的に有意であり、この研究を終了することを勧告しました。

「この研究で、私たちは初めて無作為割り付け試験により検診が肺がん死亡の有意な低減をもたらすことの明確な根拠を確認することができました。低線量ヘリカルX線CT検診が確実な利益をもたらすという事実は、今後何年もの間、肺がんの検診や対策に影響を与えるでしょう」とNCIの Lung Screening Studyのproject officerのChristine Berg博士は語りました。

研究デザイン上は、主要なエンドポイントではありませんが、補助的な知見として、低線量ヘリカルX線CT検診群では、全死亡(肺がんも含む全ての死因)も標準的なX線検診群に比較して7%低下することが判明しました。NLSTでは約25%の死亡は肺がんが原因で、その他の死亡は心血管系疾患などによるものでした。この知見が何を意味するかは、今後さらなる分析が必要です。

NCIとこの研究のパートナーは、肺がん検診の潜在的な利益に関して、もっとも信頼の高い結果をえるために、この研究を行いました。他の研究者が、この試験のデータを利用して、さらなる分析を行い、臨床的なガイドラインや肺がん検診に関する施策を提案することになるでしょう。

「この研究で得られた、高い年齢層でリスクの高い集団に低線量ヘリカルX線CT検診を行うことに利益があることの客観的な証拠を与えるもので、低線量ヘリカルX線CT検診が責任を持って導入され、異常を指摘された受診者が適切にフォローされると、何千もの命を救う可能性があります。」とNLSTを実施するACRINの全国研究責任者であるDenise Aberle博士は語ります。「しかしながら、肺がんと喫煙は高い関連があることから、この臨床研究の研究者は、肺がん死亡を減らす最も単純な方法は、喫煙を開始しないことであり、もし喫煙しているのであれば、永久に禁煙することだと強調します」

ヘリカルX線CTの考えられる不利な点として、多数のCTスキャンによる放射線影響の集積があります。他には、より詳しい検査が必要となり結局肺がんではなかったもののその過程で外科的あるいは医療的な合併症を患者が受けることや肺がんの疑いではなく肝臓や腎臓疾患を疑った検査で受けるリスクがあります。さらに、検診で疑い所見が得られた多くの症例は、結果のほとんどが「がん」ではないことから、無視できない不安や過剰な検査コストをもたらすことになります。言うまでもなく、これらの不利益は、肺がん死亡の確たる低減よりも、大きくなることがないかどうか検証することが求められます。

さらに、この研究の参加者は、高危険群の喫煙者で人種により偏りが考慮されていますが、主要な医療センターで検診を受けたこの研究への参加者は、検診プログラムへの参加の意欲が高く、都市部の集団であることも留意する必要があります。このため、他の特性を持つ集団に、低線量ヘリカルX線CT検診を推奨することの効果を精度よく推計するものではないかもしれません。

出典

Lung cancer trial results show mortality benefit with low-dose CT:
Twenty percent fewer lung cancer deaths seen among those who were screened with low-dose spiral CT than with chest X-ray

関連学会

日本CT検診学会

全身X線CT検査に関する米国FDAからの情報提供

米国FDAによる一般の方向け情報
Full-Body CT Scans – What You Need to Know
Other Information Resources Related to Whole-Body CT Screening
Whole-Body CT Screening–Should I or shouldn’t I get one?

線量の管理

線量管理のための「CADIシステム」の新バージョンを発表 ―低線量肺がんCT検診の施設認定制度を見据えたデモンストレーションを実施―

課題の困難さ

放射線リスク評価の困難さへの言及例

『肺がん検診に関しましては、それも外部の委員から出ているところなのですけれども、放射線による超過死亡について計算せよというところですので、そこは内部ではできないので、外部にお願いしてやっていただいているところですけれども、なかなかそれが進んでないというところになっております。』

記事作成日:2010/11/12 最終更新日: 2023/07/04