文献 paper
大石晃嗣,小迫和明、小林有希、園木一誠、中村尚司.エネルギーが10 MeVを超える医療用リニアック施設の遮へい設計上の留意点.RADIOISOTOPES.57(5),277-286,2008
Consideration to Shielding Design Calculation of Radiation Oncology Electron Linac Facility whose Energy is Greater than 10 MeV [in Japanese]
概要
10 MeVを超える施設のしゃへいの評価で、中性子発生源として、ターゲット周辺以外の壁の中での重い元素での光核反応も考慮すべきという主張をされています。
コメント
現行のしゃへい計算マニュアルでは、複合しゃへいで鉄を用いた場合の中性子シールドの問題点は大石さんらの研究を基に言及されていますが、壁での中性子発生の考慮への言及はありません。
確かに壁で中性子は生成されうるので、大石さんらの研究で得られた実験や計算結果の吟味が求められるかもしれません。
なお、IAEA SRS 47では、光核反応は光子の経路に沿って考えるべきであることや、壁に重い元素を用いた場合の中性子シールドの問題点が指摘されていますが、壁での中性子生成の定量的な議論はなされていません。
Q&A
Q.10 MeVのリニアックでコンクリートと鉄を組み合わせた壁での光核反応による中性子生成を考慮する必要はありますか?
A.鉄での光核反応の閾値は10 MeVよりも高い(11.2 MeV)ので考慮する必要はありません。
ただし、15 MeVよりも高いエネルギーでは考慮する必要がある場合があることを示す論文が出版されています。
また、7 MeVを超える光子では鉛で光核反応が発生します。
専門家からのコメント
・電離箱での壁の外側での測定結果が計算の約百倍とあるが、壁での捕獲γ線がこれに寄与しているとすると、エネルギー依存性を補正すると、測定値がより相対的に大きくなってしまう。このため、これまでのデータとさらに一致しないことになるのではないか。
だとすると測定の妥当性の検証が必要ではないか。
・図4の水シールドで壁以外から発生した中性子をシールドすると考えるのは無理があるのではないか。水シールド断面積が小さければ、ヘッド周辺で生成した中性子をほとんどシールドできていないと考えられるのではないか。
→ 大石さんによると水シールドは十分に大きいそうです。
ラフな試算
鉄材を含んだ複合の遮蔽壁を通過する中性子の発生源割合の概要を推計する。
仮定
・一次ビームの立体角 π/5 ステラジアン
(ターゲット部分でのX線の放出方向)
・X線
一次ビーム内光子割合 0.05
コリメータ衝突光子割合 0.95
(厚み)
装置の遮へいタングステン 5 cm
(モノブロックのjawで10数センチ、付加されているMLCで7 cmあるので過小設定)
複合遮へいでの鉄 66 cm
(13 MeVの光子の光核反応断面積)
タングステン 0.4 barn
鉄 0.01 barn
(比重)
タングステン 19.1 g/cm3
鉄 7.86 g/cm3
(原子数密度)
タングステン 6.25E+22 cm-3
鉄 8.47E+22 cm-3
・巨視的光核反応断面積
タングステン 2.50E-02 cm-1
鉄 8.47E-04 cm-1
・光核反応をエンドポイントとした場合の平均自由行程
タングステン 4.00E+01 cm
鉄 1.18E+03 cm
結果
・X線の光核反応割合
タングステン 5.83E-02
鉄 2.65E-02
壁までの距離 3 m とすると、
・壁での中性子の相対的な量
タングステン由来 6.48E-03
鉄由来 2.65E-02
考察
この結果からは一次ビームによる壁での中性子生成は無視できないと考えられる。
まとめ
15 MVを超えるような高いエネルギーの加速器で、鉄を含む複合遮へいを用いると(鉄の外側のコンクリートが薄いと)、遮へい計算マニュアル2007での改訂点への考慮だけでなく、鉄での光核反応とそこで生成された中性子が後ろのコンクリート内の元素で捕獲されることの即発ガンマ線などの影響も考慮する必要があるかもしれない。
電子線のツーブスでの制動放射
電子線ツーブスは、複合遮蔽外側の鉄がない部分の光子の漏洩線量を増加させる。
The tubes for an electron beam increases the leakage radiation dose.
電子線ツーブスは、複合遮蔽内の鉄への入射部位で鉄の光核反応の閾値を超える高いエネルギーの光子を増加させる。
The tubes for an electron beam increases the number of photons that exceeds the threshold of an photo-nuclear reaction of iron.
関連する学会発表
(福岡和白病院)泉 隆、小野 宏巳、一木 俊男、山北 克己、石黒 幸枝、森永 由起子.リニアック室の漏洩線量の測定.日本放射線安全管理学会第8回学術大会.2009
Threshold energy of photonuclear reactions
Nucleus | (γ, n)[MeV] | (γ, p)[MeV] |
---|---|---|
27Al | 13.06 | 8.27 |
40Ca | 15.61 | 8.33 |
55Mn | 10.23 | 8.07 |
54Fe | 13.38 | 8.85 |
56Fe | 11.20 | 10.15 |
59Co | 10.45 | 7.36 |
58Ni | 12.22 | 8.17 |
60Ni | 11.39 | 9.53 |
63Cu | 10.85 | 6.12 |
65Cu | 9.91 | 7.45 |
64Zn | 11.86 | 7.71 |
66Zn | 11.06 | 8.93 |
121Sb | 9.24 | 5.78 |
181Ta | 7.58 | 5.94 |
180W | 8.41 | 6.57 |
182W | 8.07 | 7.10 |
183W | 6.19 | 7.22 |
184W | 7.41 | 7.70 |
186W | 7.19 | 8.40 |
197Au | 8.07 | 5.78 |
206Pb | 8.09 | 7.25 |
207Pb | 6.74 | 7.49 |
208Pb | 7.37 | 8.01 |
209Bi | 7.46 | 3.80 |
出典
A Konefal, A Orlef, M Dybek, et al.: Correlation between radioactivity induced inside the treatment room and the undesirable thermal/resonance neutron radiation produced by linac, Physica Medica 24, 212-218, 2008
10 MeV以下での放射化
γ線による誘導放射能に対する考察(10MeV以下の光核反応)
20MeVの光子をコンクリート壁と鉄を含むコンクリート壁に入射させた場合
コンクリートのみの壁(厚み40cm)
光子
中性子
コンクリートに鉄の板を含む壁(鉄の厚み30cmで前後5cmはコンクリート)
光子
中性子
核データの検証
高エネルギー化への対応例
清水建設
医療放射線施設遮蔽設計アプリ「SC-HoRS®」
放射線医療施設の高エネルギー化に対応した遮蔽計算手法を開発
病院施設の放射線遮蔽設計アプリを開発
小迫 和明.医療用リニアック室の遮蔽壁の設計と評価(第92号2015年2月)