Early life exposure to diagnostic radiation and ultrasound scans and risk of childhood cancer: case-control study

放射線診断はリスクをもたらしうるかもしれないが、それがもたらすメリットは大きいので、バランスよく考えることが必要。

胎児や新生児期の放射線曝露の発がんリスクを調べた論文の紹介です。

目的

診断目的の放射線や超音波への胎児期と生後0~100日間の間での曝露が小児期の発がんと関連があるかどうかを明らかにする。

研究デザイン

症例対照研究

調査地域

イングランドとウエールズ

調査参加者

症例

United Kingdom Childhood Cancer Study(UKCCS)に登録されている1992年から1996年に「がん」と診断された患者(出生年は1976年から1996年)2690人。

対照

South Wales and one English authorityの一般医療機関の患者台帳から、年齢、性、地域をマッチして選んだ4858人。

主要なアウトカム

小児期の全ての固形がん、白血病、リンパ腫、中枢神経系がんのリスクであり、それをオッズ比で評価した。

結果

マッチング要因と、結婚年齢、児の出生時体重で調整したロジステック回帰分析では、胎児期の超音波曝露は小児がんのリスクを増加させなかった。
胎児期の放射線診断に伴うX線への曝露により全ての固形がん(odds ratio 1.l4, 95% confidence interval 0.90 to 1.45)、白血病(1.36, 0.91 to 2.02)でわずかにリスクが増加することが示唆されたが、偶然の偏りであることが否定できなかった。
出生後早期(0-100 days)の放射線診断に伴うX線への曝露は、効果量の小さな統計学的に有意ではない過剰なリスクを全ての固形がんと白血病でもたらすことが示唆され、症例が少ないがリンパ腫ではリスクの増加が認められた (odds ratio 5.14, 1.27 to 20.78) 。

結論

リンパ腫の結果は、今後の検証が必要であるが、全ての結果は、一般的に行われているCTスキャンで受けるよりも小さい線量でもリスクが増加しうる可能性を示したことから、母胎の腹部や骨盤の画像診断や出生早期の小児の放射線画像診断でリスクの考慮が必要なことを示唆している。

症例の疾患

白血病:1253人、リンパ腫:231人、は中枢神経系腫瘍:482人。

調査対象者の放射線診断の頻度

胎児期

胎内で放射線に曝露したのは305人、延べ検査件数は319回。
複数回の検査があったのは、そのうち5%に過ぎなかった。
最も多かった検査は骨盤計測で204件、全体の64%。

出生早期

生後100日までに診断目的の放射線曝露を受けていたのは170人で、延べ検査件数は247回。
そのうち24%は、放射線検査を2回以上受けており、4%の小児は4回以上曝露していた。
検査の種類で最も多かったのは、胸部X線撮影(177件、72%)。

この研究で考慮されていること

胎児期

母胎への放射線診断の種類の違い(=胎児が受ける線量の観点から分けて解析している)と時期の違い

出生早期

出生早期の放射線診断では、悪性腫瘍の初期症状のために検査を受けていないかどうか

出典

Early life exposure to diagnostic radiation and ultrasound scans and risk of childhood cancer: case-control study

考慮すべきこと

リスクが有るかないかではなくは、どの程度のリスクがあり得るかを考える必要がある

妊娠中や出生早期の放射線診断はそれがもたらす利益があるのでバランスよく考える必要がある。
疾患を持った妊婦が必要があって放射線検査を受けることは、それが適切なものであれば、胎児へのリスクを考えても躊躇する必要はない。
わが国の医療機関では胎児や小児のリスクと便益の比が最小になるように十分に配慮した放射線診療が行われている。

これまでの知見との一貫性

注意深いデザインで慎重な解析が行われているが著者も述べているように悪性リンパ腫のみで放射線のリスクが検出されたことは、これまでの知見と一致せず、タイプ1エラーが発生したか、症例と対照間で調整が不十分な交絡因子があるのかもしれない(次の事項を参照して下さい)。
また、著者らは、検出力が十分ではないとしながら、この研究で得られたデータは、胎内での放射線曝露が急性骨髄性白血病のリスクを増加させるかもしれないことを示唆しており、原爆被爆者を対象とした疫学研究で、白血病のうち急性骨髄性白血病が放射線との関連が最も強かったことと一致していたと述べていますが、原爆被爆者を対象とした疫学研究で確認されている急性骨髄性白血病のリスクの増加は、高齢者が主であることから、この研究で示唆された結果とは必ずしも一致しません。

出生早期の胸部X線による悪性リンパ腫のリスク

出生早期の新生児の胸部X線での放射線曝露では悪性リンパ腫のリスクが5倍程度高くなっている(odds ratio 5.14, 1.27 to 20.78)。発症した児は未熟児として誕生し、複数回のX線検査を受け、発症は10歳以降との結果が得られており、胸部X線による放射線曝露以外の要因ではないかと考察で議論されている。

記事作成日:2011/03/03 最終更新日: 2012/11/10