本日歯科でレントゲンの撮影をしました。撮影中(撮影開始直後から)ズ~ンと頭が重くなるような感覚に襲われ、撮影後急速に吐き気が襲ってきました。吐き気はその後2時間以上続きました。以前にも別の歯科でレントゲン撮影をしたことがありますが、今回のような吐き気は初めてでした。
放射線の影響は考えられないということですが、もしかしたら私は電磁波過敏症なのでしょうか?
電磁波過敏症という疾患は確認されているのですか?
電磁波過敏症は科学的にはまだ確認されておらん。
電磁波が体に悪いに聞くけど、どのような生体影響が考えられるのですか?
磁界が変化すると体内で電流が流れることが何らかの生体影響を引き起こすのではないかと考えられている。
送電線のような商用周波では刺激作用を制御することが安全規制の目標じゃ。
放射線とは作用が異なるのですか?
紫外線領域より波長の長い電磁波は直接イオン化をもたらすことがないので、
熱作用で高温にならなければ、たんぱく質の変性はありえない。
ここが、放射線とは異なるところじゃ。
紫外線もできるだけ避けた方がよいのかな?
ビタミンDを体内で合成するためには紫外線が必要じゃ。
なんでもほどほどがよいのではないかな。
一般的には日陰で30分間程度過ごすことが推奨されておる。
政府系のサイトは信頼できるのかな?
担当官と専門家がプライドをかけて作っておる。
でも、何でも批判的に吟味することが大切じゃろ。
電磁波一般はこちらをどうぞ。
何でも疑っていたら身が持たないと思うけど。
携帯電話などのような波長が短いマイクロ波だと何が考えられるのかな。
刺激作用を考えるのですか?
刺激作用は生体内の誘導電流じゃから、波長が短くなると無視できる。
マイクロ波だとマイクロウエーヴで調理できることからも分かるように、ずばり熱作用じゃ。
送電線のような低周波だと熱作用が無視できるが波長が短くなると観測される。
暖まると体によい気がするけど。
ネズミだと熱ストレスで学習能力が低下することが証明されておる。
局所だけ熱が上がってもまずいか。
携帯電話の近傍アンテナの出力は眼球温度が43度以上にならないようにすることが義務づけられておる。
生体内の分子にある電子に影響を与えるとすると、他にも影響があるような気がするけど。
大きな影響がないのは明白じゃが、微妙な影響が本当にあるかどうかはよくわかっておらん。
でも、どうでもよいことを心配してもしょうがないように思う。
商用周波数電磁界で子供が白血病になると聞いたけど。
兜先生らの研究じゃな。
日本語の報告書はこちら。
あるいはこちら
結論は?
寝室の磁界レベルが0.4μT以上で小児白血病のリスクが2.6倍に増加し (95% CI=0.76-8.6)、白血病の種類をALLのみに限るとリスクが 4.7倍に増加した (1.15-19.0)というものじゃな。
データはどうだったの?
これがデータじゃ。
症例群 | 対照群 | |
---|---|---|
総数 | 312 | 603 |
0.4μT以上 | 6 | 5 |
症例群 | 対照群 | |
---|---|---|
総数 | 251 | 495 |
0.4μT以上 | 6 | 3 |
症例は312例中6例が0.4μT以上か。
対照が603例中5例が0.4μT以上だから、
0.4μT以上だと白血病のリスクが2倍程度ということだね。
症例群でもしも、磁界の評価が間違っていて、0.4μT以上と評価されたけど、
本当は0.4μT以上ではない症例が一つあったらどうなるのかな。
放射線計測でお馴染みのポアソン分布を使って計算するとよいじゃろ。
対照群だと603例中0.4μT以上が5例じゃから、ある家屋が0.4μT以上である確率は5/603=0.83%じゃ。
磁界の強さが病気と全く関係ないと仮定して(帰無仮説)、
312症例中0.4μT以上の家屋が5例以上ある確率を余事象を使って計算してみよう。
確率の計算は直感と異なることがあるから注意が必要だね。
クラスに同じ誕生日のペアがいる確率の計算を思い出すなあ。
余事象として312症例中0.4μT以上の家屋が4例しかない場合の確率を、
地道に順々に考えることにすると、
まず、すべての家屋が0.4μT未満の確率は、
(1-0.83%)312=7.5%じゃ。
一つの症例だけ0.4μT以上になる確率は、
311症例が0.4μT未満で、かつ、どれか1症例だけ(311パターン)が0.4μT以上だから、
{(1-0.83%)311}×0.83%×311=19.4%
だな。
2つの症例だけが0.4μT以上になる確率は、
310症例が0.4μT未満で、かつ、312症例のうちどれか2症例だけ(312C2パターン)が0.4μT以上だから、
{(1-0.83%)310}×0.83%2×312C2=25.2%
となる。
同様に、3つの症例だけが0.4μT以上になる確率は、
309症例が0.4μT未満で、かつ、312症例のうちどれか3症例だけ(312C3パターン)が0.4μT以上だから、
{(1-0.83%)309}×0.83%3×312C3=21.8%
ですね。
2症例だけが0.4μT以上になる確率が一番高そうだな。
期待値は312×0.83%じゃ。
最後に4つの症例だけが0.4μT以上になる確率は14.1%になる。
0.4μT以上の症例が0-4であるのは、
これを全部足せばよいから88%じゃ。
ということは求める確率は100%-88%で12%か。
全く関係なくても、10回調査すると1回は偶然変動による偏りが観測されそうだね。
帰無仮説(=磁界の強さが病気と全く関係ない)は否定できないということじゃ。
こうすると検定結果の頑健性が調べられそうですね。
これだけだとパワーが足りないから、さらに精度のよいデータが集積されると確実性が増すじゃろ。
症例対照研究だとバイアスが入りやすいと聞いたけど、それは大丈夫かなあ。
研究への協力が必ずしもきちんと得られず何らかのセレクションバイアスがかかっていることは否定できないじゃろ。
症例で非参加者の曝露が小さいとしても、リスクが残ると主張されているようだけど。
一般に誤分類はリスクを小さく見積もる方に働くが、誤って高い曝露群に分類するようなことがあると、このサイズでは影響が大きい。
交絡因子は大丈夫かなあ。
電磁界曝露だけの影響を取り出して調べているのかな。
症例群 | 対照群 | |
---|---|---|
父親の教育歴 | 18 (7.3%) | 24 (4.9%) |
母親の教育歴 | 18 (7.2%) | 21 (4.2%) |
妊娠中の母親の喫煙歴 | 133 (13.2%) | 42 (8.5%) |
と違いがあるが、これらは考慮して解析されておる。
なかなか微妙な影響だとパワーを確保した調査がそもそも難しいと思うけど、
パワーが十分でない調査デザインには意味がないのかな?
どのような調査にコストをかけるかは総合的に考える必要があるが、
単にパワーが足りないのであれば、後々、プール解析に耐えるデータを提供するだけでも立派な価値がある。
疫学調査はリスク評価の有力なツールじゃが、バイアスの影響をできるだけ小さくしないと誤った結果をもたらしてしまう。
読者の皆さんも、納得できる疫学調査には前向きに協力されてくだされ。
個人差はどう考えるとよいですか?
磁気閃光などは個人差が大きいようじゃ。
7Tに耐えられるかどうか興味のある方はトライされてもよいかもしれない。
よい画像を得るか、未知のリスクを考慮して画質の向上を断念するか、難しいところだね。
さて、電磁波過敏症じゃが、今のところヒトでは確認されておらん。
このため臨床医に対しても、その存在を前提とした対応をすべきでないとWHOのファクトシートにも記載されておる。
二重盲検テストをしたら、本当に電磁波を感じる力があるかどうかわかるんじゃないの。
科学的にはそうじゃが、それで本人が納得できるかどうかは別のお話になりそうじゃ。
精神保健分野の専門家の力を借りるのがよいのではないかな。
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≪「電磁波と小児の脳腫瘍」に関する疫学研究の解釈≫
特集:電磁環境と公衆衛生
電磁場過敏症研究:物理学者からみた課題
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請願
第168回国会
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原理面からのアプローチ
ヨーロッパコマドリの磁気感受では量子力学を用いた機序解明が進んでいます
前田 公憲, 立野 明宏, 渡り鳥の光化学コンパス―生物と量子力学と制御, 計測と制御, 2022, 61 巻, 1 号, p. 25-30, 公開日 2022/01/21, Online ISSN 1883-8170, Print ISSN 0453-4662
ただし、ヒトではまだこの機能は確認されていません。