リスク認知の偏りは何をもたらすか

放射線診療に漠然とした不安を感じる患者や医療従事者への対応が医療機関での長年の課題となっています。
その反面、リスクをきちんと認識せず診療にあたることも危惧されています。
このため対策が講じられています。

放射線診療への不安がもたらす社会的な影響の程度は明らかではないが、無視しえないと考えられています。
昭和49年に産婦人科医を対象とした調査#1では、優生保護法指定医を無作為抽出法で1,000名選び実態が調査されました。
諸般の事情により回答数228の段階で回収作業は中断しましたが(有効回答割合23.9%=228/(1000-47)(宛先不明で47通が返送))、
・ 妊娠中にX線検査をうけたことで婦人科医に相談をする患者数は、全国で年間およそ87,000
・ 被曝を理由にした人工妊娠中絶は、少なくとも7,700件から、最大に見積もると20,732件に達する
・ 被曝を受けたあとの処置に対する考えは、一定していない
という結果が得られています。
 このような現状に対応するために、日本産婦人科学会は産婦人科診療ガイドラインにCQ103として「妊娠中の放射線被曝の胎児への影響についての説明は?」との項目を盛り込み、科学的な事実をもとに回答と解説を掲載しています。

その反面、リスクをきちんと認識せず診療にあたることも危惧されています。
このうち、循環器領域のIVRで患者の放射線皮膚炎が報告されたことから、日本循環器学会では、循環器診療における放射線被ばくに関するガイドラインを策定しています。

これらの活動は、放射線診療に携わる側がリスクと向き合い問題の解決を図ることを目指しており高く評価されます。

#1 昭和49年度厚生科学研究北畠班「X線検査被ばくを理由とした人工妊娠中絶に関する実態調査」(班員 藤田学園・名古屋保健衛生大学 医学部放射線科 古賀佑彦、研究協力者 名古屋大学医学部付属放射線技師学校 折戸武郎)

記事作成日:2010/04/29 最終更新日: 2018/08/29