検査の間隔を空けると放射線リスクは減りますか?

曝露間隔を一日以上空けると開けない場合に比べてリスクを低減できることが期待される。
それぞれの検査が意味があるものであれば、検査を繰り返すことは不合理ではない。

医療法施行規則の改正でX線CT検査で患者が受けた線量を記録・管理することが義務化されました(2019年3月11日公布(2020年4月1日施行))。

X線検査を繰り返すことってあると思うけど、検査を繰り返したことで放射線リスクが心配になることがあるみたいです。リスクが蓄積して大きくなるというのが不安材料のようです。

「X線は体内に蓄積されますか?」「二日続けてレントゲン検査しても大丈夫?」というのは定番の質問であるようじゃ。

そもそも、それぞれのX線検査のリスクが小さいと、それを複数回行った場合のリスクの程度も限定的であると思うけど、放射線のリスクは過大視される傾向にあるので説明に困惑することがあるようです。

では、簡単にリスクを計算してみよう。

X線CT検査で10 mSvの線量を受けるとし、リスク係数を5%/1Svとすると、生涯のがん死亡リスクは0.05%となりますね。
がん発症の場合の寿命短縮を20年とすると、平均寿命短縮は20年×0.05%だから、1E-2年なので4日程度の寿命短縮となる。
割引率(=将来のリスクを割り引いて考えること)を考えるとその検査が数日の寿命延長効果があれば、その検査は正当化されるとなりそうだ。
でも、その検査を10回行うと、だんだんリスクは大きくなって数週間から一月間程度分の寿命短縮になってしまう。
検査を繰り返すとやはりリスクは高くなるのですか?

放射線治療では分割照射が行われておる。この方法は、治療の副作用を小さくすることをねらったもので、がん細胞に比べて障害から回復しやすい正常な細胞が放射線のダメージから回復させることを意図しておる。放射線生物学の研究ではマウスの精母細胞にまとめて6Gy照射するのではなく60回に分割すると、突然変異率を1/3に減らせることが知られておる。発がんを指標にした場合でも、マウスに250 mGy照射する場合でも毎日50 mGy照射する場合は、毎日10 mGy照射する場合に比べて、がん発生が2倍になることが知られている。

分割回数が多いと影響は小さくなるということですね。照射の間隔はどうですか?機能に続けて検査するか、少し開けるかは迷うことがあると聞きました。

分割照射によるリスクの低減は照射間隔が1日でも見られることから、1日以内にダメージからの回復がなされると考えられておる。放射線診療でのリスクと原爆被爆者のリスクを比べると、総線量あたりのリスクを比べると、繰り返し線量を受ける放射線診療でのリスクは、半分程度に小さくなると考えられておる。

繰り返しの照射ではリスクを少し割り引けるということですね。

もっとも、それぞれの放射線の検査が必要なものであれば、繰り返し受けた検査の放射線の量を合計してリスクを考えることの意義は乏しい。

線量をそのまま合計してリスクを考えるのは、リスクが過大になるからですか?

それ以前に、それぞれの検査での放射線リスクは検査によるベネフィットでオフセットされているからじゃ。これまで受けた検査は無駄なものではなく、今のサバイバルに寄与しておるのじゃ。
また、いわゆる確定的影響は、細胞の欠落症状なので、組織として回復しておれば、それまでの線量はオフセットされておる。

検査の意義が納得できないとリスクだけが気になりそうだ。

検査を繰り返し受けたら放射線リスクが心配になるという心理の背景には、検査を繰り返すことに納得してないことがあるのではないかと疑ってもよいのじゃないかな。

リスクテイクするには、それは意義があると思うことが必要だよね。

この記事は、放射線総合医学研究所の島田義也先生から文献の紹介を受けて作成しました。
参考にした文献は、島田義也ら.医療被曝と発がんリスク.公衆衛生,73(12),922-926, 2009です。

医療での放射線利用によるリスク

浜田 信行, 吉永 信治.医療放射線被ばくの疫学とリスク推定に関する最近のトピックス

正当化できることはリスクをオフセットできること

オーストラリア・ビクトリア州:Practice guidance document Justification and Approval of Medical Radiation Procedures Version: SEPTEMBER 2015

Justification on an individual basis

A radiation procedure is justified on an individual basis when it is determined by the Radiation Medical Practitioner that the radiation exposure will produce sufficient benefit to the exposed individual to offset the risk associated with the radiation exposure. In determining the net benefit from a radiation procedure, the Radiation Medical Practitioner must take into account clause 3.2.2 of the Code.

EC

Security Scannersを巡る議論に関して。

2. What are the current guidelines for radiation protection?

The principle of justification requires that any decision that alters the radiation exposure situation should do more good than harm; in other words, the introduction of a radiation source should result in sufficient individual or societal benefit to offset the detriment it causes.

General Principles of Radiation Protection in Fields of Diagnostic Medical Exposure

This means that, by introducing a new radiation source, by reducing existing exposure, or by reducing the risk of potential exposure, one should achieve sufficient individual or societal benefit to offset the detriment it causes.

WHO

小児のX線検査に関するリーフレット
小児のX線検査に関するポスター

1日空けることでリスク低減を説明している例(検査の必要性を踏まえた判断が求められるのではないでしょうか)

仲田 佳広, 島田 義也, 胸部CT検診による放射線発がんリスクの議論に答えて―低線量CTは安全な検診といえるのか―, 肺癌, 2012, 52 巻, 7 号, p. 1064-1067

検討会での議論例

2018年1月19日 第4回医療放射線の適正管理に関する検討会

○稲木課長補佐 事務局でございます。
 今の山口先生の御指摘は、過去の被ばく線量については、その時点では必要であったから行ったと。したがって、その被ばく線量については記録が必要なのか、それとも考慮しないと考えるべきかというところについて、先生の御意見を賜りたいと思っております。

患者ごとの管理を求めている例

H30 保医発0305第3号

関係学会の定める指針に基づいて、適切な被ばく線量管理を行っていること。その際、施設内の全てのCT検査の線量情報を電子的に記録し、患者単位及び検査プロトコル単位で集計・管理の上、被ばく線量の最適化を行っていること。

一般社団法人日本放射線科専門医会・医会による説明資料

記事作成日:2010/04/07 最終更新日: 2023/07/10

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