X線CT検査を行うかどうか
安全な放射線量はなく、特に小児や若年成人のリスクは高い
と冠動脈(心臓)CTのためのSCCTガイドライン(pdf file, 1.1 MB)に記述されているけど、
検査の適応はどう考えるのがよいですか?
放射線利用の原則からはどうじゃろか?
正当な放射線利用かどうか
まずは正当であることですね。
(1) 検査を行った場合の「利益」と「不利益」を比べると利益の方が大きくて、
(2) 検査を行わなかった場合と比べてもアウトカムがよりよいと考えられることが必要になりそうだ。
検査の意義はイメージしやすいけど、検査を行うことの不利益がよくわからない。
放射線のリスクの大きさ
検査を行うことの不利益は色々とありそうじゃが、ここでは放射線のリスクだけを取り上げて考えてみよう。
マイナス面のひとつに過ぎない被曝を必要以上に取り上げることがフェアではないという見方もあるが教育のためなので我慢して欲しい。
もちろん、それぞれの検査には得意な場面と苦手な場面があるので、それも吟味して適応を判断するのが重要じゃ。
他のリスクは、例えば、リスクの程度をどう伝えればよいですか?をご覧頂きたい。
名目リスク係数を考えればよいということですか?
名目リスク係数のグラフじゃ。
出典は、米国FDAのEstimated Benefits ofProposed Amendments to theFDA Radiation-Safety Standard forDiagnostic X-Ray Equipment じゃ。
30歳だと1Svあたりの生涯での死亡確率が0.05程度ということですね。
心臓CTの線量はどの程度ですか?
だいたいは実効線量で10 mSv程度と推定されておる。
個別の推計は放射線部に尋ねるとよいじゃろ。
これでリスクの大きさは推計できるじゃろ。
計算すると、
0.05/Sv×0.01Sv=5×10-4
だから、千分の5程度ということか。
この計算は不確かさが大きい。
もしかしたら本当はホルミシス効果があってリスクがマイナスかもしれん。
リスクがあるとすると千分の5程度かもしれないということで便益と比較するとよいということか。
確率的な表現以外にリスクの表示法はないですか?
平均余命短縮という手法がある。
放射線誘発の何らかの致死性がんを発症し、それによる余命短縮の大きさを30年とすると、
平均余命短縮は、
30年×5×10-4≒6日
だから1週間程度かもしれないということか。
それを上回る便益があるかどうかや検査をしない場合に患者さんが被る不利益の大きさなどと比較すればよいのか。
若年者では名目リスク係数が大きくなるととも(75歳での曝露に比べると若年女性では5倍程度高い可能性がある)に放射線誘発の何らかの致死性がんを発症した場合のデトリメントが大きくなるので、それを考慮することが必要じゃろ。
リスクを過小に見積もるのもよくないが過大に見積もるのもよいとは言えない。
定量的にセンスよく考えて欲しい。
CTとCAGをともに行うかどうかは、それらをセットにして、もたらされる利益とリスクを比較して考えればよいのですね。
ところで、国際放射線防護委員会(ICRP)では、このような実効線量の使い方を推奨していないのではないでしょうか?
放射線照射条件の最適化には臨床医の協力も必要
もちろん、この方法(=実効線量などの曝露指標の推計からLNTモデルに基づきリスクを推計する)には限界があるが、他に方法がないので、限界をわきまえて使うしかないのではないじゃろか。
放射線利用の最適化はX線照射条件のお話になるが、放射線部では色々と検討しているので、どこまで線量を最適化できるかは放射線部と協議するのがよいじゃろ。
日本診療放射線技師会
レントゲン手帳
諸澄 邦彦、中澤 靖夫.社団法人日本放射線技師会医療被ばく記録「レントゲン手帳」の普及について
第10回 日本放射線公衆安全学会学術大会
平成24年度 学術大会報告
様々なエピソード
愛用のレントゲン手帳、運用停止なぜ?
レントゲン手帳と線量の話
レントゲン手帳
医療被ばく低減施設認定事業について
「レントゲン手帳」試行報告を読んで
神戸百年記念病院の取り組み
楽しいリスク・コミュニケーションの試み
損失余命を用いた放射線診療が正当であることの検証例
患者の状況に応じて判断の重要性を検証した例
Impact of Reduced Patient Life Expectancy on Potential Cancer Risks from Radiologic Imaging
日本医学放射線学会による試み
診療用放射線の安全利用のための研修ビデオの公開のお知らせ
「放射線診療の正当化に関する事項」や「放射線診療を受ける者への情報提供に関する事項」に関して扱っており、患者さんとの対話や正当化・最適化を意識するようになってもらうことも目指されています。