WHO Fact sheet N° 303
2006年4月
チョルノービリ(チェルノブィリ)事故による健康影響の概要:その全体像
背景
1986年4月26日に、旧ソ連のウクライナ共和国のチェルノブィリにある原子力発電所4号炉で起きた爆発は、大量の放射性物質を大気中に放出しました。環境中に放出された放射性物質は主にヨーロッパに降り注ぎました。特に降下量が多かったのは、ベラルーシで、その国土の大半に相当量が降下しました。また、ロシア連邦、やウクライナの一部地域も同様に汚染しました。
事故の後、1986年から1987年の間に、35万人が”清算人”として清掃作業に従事するために、軍隊、発電所、地元の警察、および消防署から動員され、破壊した原子炉の閉じこめ放射性物質を含む瓦礫の除去作業に従事しました。このうち原子炉周辺の30km圏内で主に作業していたおよそ24万人の作業者が最も高い放射線量を受けたグループです。清算人の登録数はのちに60万人にもなりましたが、高い線量を受けたのはそのうちの一部に過ぎません。
1986年の春から夏にかけて、11万6千人の住民がチョルノービリ(チェルノブィリ)原子炉周辺地域から非汚染地区に疎開させられました。さらに引き続く数年間に23万人が移住させられました。
現在、およそ500万の人々が、ベラルーシ、ロシア連邦、およびウクライナ(以下、「3カ国」と呼ぶ)内の放射性セシウムで37kBq/m2以上に汚染された土地に暮らしています。このうち、およそ27万人は、放射性セシウムの汚染が555kBq/m2を超えるため、ソ連当局により厳戒区域(SCZs)として分類された地域に住み続けています。
彼らが生活していた土地への帰還の見通しがないままの疎開や移住は、社会的なネットワークを断絶させ、多くの人々に大きな精神的苦痛を与えました。彼らのうち、多くの人が「被ばく者」として社会的な偏見を受けました。
それに加えて、事故の後の最初の数年間は信頼できる情報が提供されなかったため、公的な情報への根強い不信とチェルノブィリ事故の健康影響について風評を招くことになりました。
この文書は信頼できる科学的調査から判明したチョルノービリ(チェルノブィリ)原子力発電所事故の健康影響の全体像を示します。正確でゆがみのない情報は、事故の影響を最も受けた人々の癒しを助けることでしょう。
WHOによる健康影響の再評価
世界保健機関(WHO)は、国連のチョルノービリ(チェルノブィリ)・フォーラム・イニシアチブの下で、2003年から2005年に一連の専門家会議を開催し、チョルノービリ(チェルノブィリ)事故に関連した健康影響に関するデータを科学的に再評価しました。WHOの専門部会は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が2000年に刊行した報告書を土台にし、専門誌に発表された文献や3カ国の政府機関から提供された情報を批判的に吟味した上で追加しました。専門部会は、3カ国で調査研究に従事してきた多くの専門家をはじめ世界中の専門家で構成されました。また、事故の影響が最も大きいとされる3カ国で実施されている被災者を対象とした特別な健康管理プログラムで得られた知見についても考慮しました。 これらの検討結果はWHOレポート「Health Effects of the Chernobyl Accident and Special Health Care Programmes(チェルノブィリ事故の健康影響と特別な健康管理プログラム)」(pdf file, 1.7 MB)としてまとめられました。
WHO専門部会は、情報の科学的な質を特に重視し、情報源は、主に査読を経て専門誌に掲載された研究論文を用い信頼性の高い結論が導けるようにしました。さらに、日本の原爆被災者などを対象にした調査など従来の高線量曝露者を対象とした調査結果とも比較しました。
放射線曝露
電離放射線への曝露は、グレイ(Gy)を単位にする「吸収線量」で測られます。シーベルト(Sv)の単位を持つ「実効線量」は人に吸収された放射線の電離エネルギーを基にして、放射線の種類と各器官や組織の放射線感受性の違いを考慮した量です。チョルノービリ(チェルノブィリ)事故では、ほとんどの作業者や被災者の実効線量は(曝露の様式などから、)吸収線量とほぼ同じ値と考えられます(つまり1Gyはほぼ1Svになります)。
人類は、飲食物や呼吸する空気に含まれる天然の放射性物質からの放射線や宇宙線など、常にさまざま自然界からの放射線に曝されています。これらの放射線を、自然放射線と呼ばれます。
UNSCEARは、世界中の人間の自然放射線による毎年の平均線量はおよそ2.4 mSv#1で、地域差に基づくその変動範囲は1-10 mSvであると報告しています。ただし、限られた数の人々が住む、”高バックグラウンド地域”では、1年間で20 mSvを超えることがあります。しかし、”高バックグラウンド地域”での線量が健康に悪影響を及ぼす可能性を示す証拠は確認されていません。
ほとんどの人で、自然放射線量の半分以上はラドンに由来しています。ラドンは、家、学校、そして職場に蓄積しうる放射性のガスです。ラドンを吸入すると、肺がんを誘発する可能性があります。線量が自然放射線レベルと同等であるとき、それを”低線量曝露”と言います。
チョルノービリ(チェルノブィリ)原子力発電所事故による線量
次の表は、チョルノービリ(チェルノブィリ)事故で最も高い線量に曝露した集団における事故から20年間の積算実効線量の平均です。比較のために、通常レベルとなる世界平均の自然放射線曝露量と一般的な放射線診療での線量も示しました。
集団 (曝露期間) | 人数 | 20年間の平均積算線量 (mSv)#2 |
---|---|---|
清算人(高線量曝露) (1986-1987) | 240,000 | >100 |
疎開した人たち (1986) | 116,000 | >33 |
厳戒区域(>555 kBq/m2) (1986-2005) | 270,000 | >50 |
低汚染地域(37 kBq/m2)居住者 (1986-2005) | 5,000,000 | >10-20 |
自然放射線 (通常の範囲1-10, 最大>20) | 2.4 mSv/年 | >48 |
全身X線 CT検査 | 12 mSv |
---|---|
マンモグラフィ | 0.13 mSv |
胸部X線検査 | 0.08 mSv |
汚染地域に住む居住者であっても多くの場合実効線量は低いですが、汚染した牛乳の摂取により多くの人の甲状腺の線量が高くなりました。甲状腺の線量は数十mGyから数十Gyに及びました。
このように放射性ヨウ素を多く摂取した人を除けば、事故後の最初の2年間に損傷した原子炉の周りで働いていた24万人の”清算人”と11.6万人の疎開した人たちの中の何人かが100 mSvを超える曝露をし、高汚染地域に住み続けている27万人が、通常の自然放射線レベルよりも高い曝露を受けました。低汚染地区(37kBq/m2)の居住者は現在も、その土地の元々の自然放射線レベル超えるわずかな曝露を受けていますが、その増分は一般的に観察される自然放射線量の変動内に収まっています。医療での線量と比較すると、全身コンピュータ断層エックス線検査1回分の放射線量が、チェルノブィリ事故後20年間に渡って低汚染地区に住み続けた場合の積算線量とほとんど同じです。
甲状腺がん
ベラルーシ、ロシア連邦、およびウクライナの高汚染地域の居住者のうち、事故時に小児期や青年期であった人では、甲状腺がんの発症率が大きく増加しました。これは事故直後の初期にチェルノブィリ原子炉から放出された高いレベルの放射性ヨウ素のためです。放射性ヨウ素は牧草に蓄積し、それを牛が食べることで牛乳中に濃縮され、それを子供が飲んだのです。この地域では通常の食生活でヨウ素欠乏となるため、放射性ヨウ素の甲状腺への蓄積が促進されたのです。放射性ヨウ素の半減期は短いので、事故後の数ヶ月の間、汚染した牛乳を子供に与えるのを止めていたならば、放射線誘発甲状腺がんの過剰増加の大部分は生じなかったでしょう。
ベラルーシ、ロシア連邦とウクライナでは、事故の時に18歳以下であった子供たちから、事故後に甲状腺がんが5千例近く見つかりました。これらの甲状腺がんの多くは放射線によります。しかし、それだけでなく、甲状腺疾患に対する地域での集中的な医学検査が、症状を伴わず臨床的な意義が必ずしも明確でないレベルの甲状腺がんも発見し、統計上のがんの発症数の増加に寄与しています。幸いなことに、進行した腫瘍がある子供でさえ、治療によく反応し、若い患者におけるこれらの甲状腺がんの予後は一般に良好です。 しかしながら、彼らは、失われた甲状腺機能を補うために生涯にわたって甲状腺ホルモンを服薬する必要があるでしょう。 今後は、特に遠隔転移を伴う子供の予後を調べるために、さらに研究を進める必要があります。長期間にわたるリスクの評価は困難ですが、チョルノービリ(チェルノブィリ)事故による甲状腺がんの過剰発症は何年間も続くと予測されています。
白血病と甲状腺以外の固形がん
電離放射線はある種の白血病(血球細胞の悪性疾患)の原因になることが知られています。放射線による白血病のリスク増加は、日本の原爆被爆者を対象とした調査で、曝露後、およそ2〜5年経過して初めて検出されました。最近の調査はチェルノブィリ事故において最も高い線量の”清算人”の中で白血病の発生が倍増していることを示唆しています。汚染地区の居住者については、子供と成人のいずれでも、発がんの増加は明確には確認されていません。日本の原爆被爆者の調査研究の結果をそのまま当てはめると、事故から20年が経過しているので、チョルノービリ(チェルノブィリ)事故に起因した白血病の過剰発症が既に終わってしまった可能性があります。しかしながら、この推論をはっきりさせるために、さらなる研究が必要です。
一方、他の臓器の放射線誘発がんの有無についても研究が進められてきましたが、WHOの専門部会によるレビューでは甲状腺がんを除き、チェルノブィリ事故に伴う放射線曝露による発がんリスクの増加を明確に示す事実は確認できませんでした。チェルノブィリ事故現場の”清算人”における白血病のリスクに関する最近の調査結果のほかには、高汚染地区において閉経前の女性の乳がんがわずかに増加し、リスクが線量と関係していることを示唆する報告があります。しかしながら、これらの調査結果は両方とも、きちんとデザインした疫学研究でさらによく確認する必要があります。甲状腺がんを除き発がんリスクの増加が示されなかったのは、発がんが全く増加していないのと意味が異なります。原爆被爆者対象の調査結果から考えると、チェルノブィリ事故により少ない線量から中等度の線量を曝露した集団でも、わずかに発がんリスクが増加することが予想されます。しかし、予想される発症リスクの増加を検出するのは容易ではありません。
死亡率
UNSCEAR(2000)によると、急性放射線症(ARS)を発症しうる程度の高い線量を受けた”清算人”は、134人となります。このうち、28人が1986年にARSのため死亡しました。 この他にも、それ以降も、”清算人”の死亡は確認されていますが、彼らの死と放射線曝露を関係づけるのは困難です。
事故により放射線に曝露した集団を観測し続けるとがん死亡の増加を見いだせると考えられます。今の技術では、発症したそれぞれのがんが放射線で誘発されたかどうか判別できません。このため、放射線による過剰死亡数は、原爆被爆者や他の高線量曝露集団における調査結果から統計学的に推測するしかありません。チョルノービリ(チェルノブィリ)では低線量率の長期曝露であるのに対し、原爆被爆者は高線量率の短時間の曝露であることに注意しなくてはなりません。線量率効果や事故後の線量評価の精度の限界、生活習慣や栄養状態の違いは、将来の発がん予測にとても大きな不確かさを与えます。さらに、ここ15年間の3カ国の平均余命はアルコールの過剰摂取、タバコ、保健医療資源の減少など放射線とは直接関係しない理由で短縮していて、がん死亡に放射線が与えたかもしれない影響の検出に重大な障害となり放射線の健康評価を困難にしています。
低線量での発がんリスクの大きさには議論がありますが、米国科学アカデミーBEIR VII 委員会は、これまで得られた研究成果を包括的に収集・吟味し低線量領域であっても、線量とリスクの関係に、敷居なしの直線関係(これはLNTモデルと呼ばれます)を当てはめることができると2006年の報告書で結論づけました。しかしながら、線量-効果関係には不確かさがあります。特に100 mSvよりも大幅に小さい線量域では、それが顕著です。専門部会は、24万人の”清算人”、11万6千人の避難民、”厳戒区域(SCZ)”に暮らす27万人の住民からなるチョルノービリ(チェルノブィリ)事故により最も多くの放射線に曝露した集団から、4千人いたる過剰がんが発症したのかもしれないとの結論を得ました。これらの3つのグループでは、自然経過でも12万人ががんで死亡すると考えられるので、放射線による過剰全がん死亡は自然発症の3-4%となります。
ベラルーシ、ロシア連邦、およびウクライナにある放射性セシウムが37 kBq/m2を超える地域に住む500万の住民からの放射線誘発発がんの推計の精度は、それよりも遙かに少ないと考えられます。なぜなら、これらの住民はバックグラウンドとなる自然放射線のレベルをほんのわずかに上回る線量にしか曝露されていないからです。基本的にはLNTモデルに基づく予測では、この集団では、最大5千人のがんの過剰死亡が生じ、それは、事故の影響がなかった場合のがん死亡を0.6 %高めます。繰り返しますが、これは事故の影響を示す単なる指標に過ぎません。なぜなら、このモデルには大きな不確かさがあるからです。
また、チェルノブイリ原子力発電所事故はベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナだけでなく、他のヨーロッパ諸国でもがんを誘発させるかもしれません 。もっとも、原子放射線の影響に関する国連科学委員会 (UNSCEAR)は、これら3カ国以外では線量がさらに小さいことから、がんの過剰相対リスクははるかに小さいと推測しています。リスクの推計には極めて大きな不確かさがあるので各国のがん統計からチェルノブィリ原子力発電所事故による過剰がん死亡を見いだすことはできない相談です。
白内障
眼の水晶体は電離放射線の影響を極めて受けやすく実効線量で2 Svを超えると発症しうることが知られていました。白内障の発症は、線量に直接依存します。また、線量が高いほど潜伏期間が短くなります。
“チョルノービリ(チェルノブィリ)白内障研究”は、放射線白内障が250 mSv程度の線量でも発症しうることを示唆しています。他の集団(例えば、原爆被爆者、宇宙飛行士、頭部にX線CTスキャン検査を受けた患者)を対象にした最近の研究で得られた知見も、この調査結果を支持しています。
心血管疾患
チョルノービリ(チェルノブィリ)事故時の緊急作業者を対象にした大規模なロシアの研究は、高い線量に曝露すると心血管疾患による死亡リスクが高くなることを示唆しています。このデータは、より長期間追跡して確認しなければなりませんが、例えば、放射線治療で心臓に高い線量を受けている患者など他の研究結果とも一致しています。
メンタル・ヘルスと心理的影響
チョルノービリ(チェルノブィリ)事故は、大規模な移住や経済的な安定の喪失、現在だけでなく将来の世代にも関係するかもしれない健康への長期の不安を引き起こしました。心配と混乱は広く見られる感情反応です。身体面と感情面でも健康が損なわれました。チェルノブィリ事故のすぐ後にソ連が崩壊したこと、そして、そのために被災者への健康管理サービスが不安定になったことも、被災者に悪影響を与えました。被災者が強い心理的ストレスや不安にさいなまれている症例や、医学的には原因が不明の身体症状を呈した症例が報告され続けています。
事故は一般住民の心身両面に深刻な影響を与えました。これらの影響の多くは漠然としていて、医学的な診断を与えるには至りません。「生存者」ではなく「犠牲者」と呼ばれることは、将来にわたるやるせなさと自己統制感の欠如をもたらしました。このことは、健康への過度の関心、あるいは、反対に、飲酒や喫煙、放射性セシウムのレベルが高い地域で採れたきのこやイチゴ、鶏肉の消費など健康を顧みない行動を引き起こしています。
生殖および遺伝的な影響と子供の健康
多くの人にとっては、チェルノブィリ事故により曝露した放射線の量は小さく、放射線曝露が原因の生殖能力低下、死産数、異常妊娠、異常分娩は示されていませんし、これからも生じるとは考えられません。ベラルーシでの形態異常の報告数が緩やかであっても持続的に増加しているのは報告システムの改良によると考えられ放射線曝露の影響を示しているのではありません。
WHOの役割
この専門部会報告書は、これまでのWHOにおけるチョルノービリ(チェルノブィリ)事故の健康影響の評価と緩和への取り組みに区切りをつけます。WHOは報告書に述べられた研究課題を積極的に推進し、実務的な勧告作成にも取り組みます。さらに、WHOはチェルノブィリ事故で最も影響を受けた人々に科学的事実に基づく情報を提供し続けることにも確実に取り組みます。このような情報が、彼らの健康と将来のためのよりよい意志決定を可能にするでしょう。
さらなる情報
Chernobyl: the true scale of the accident
WHO Expert Group report “Health Effects of the Chernobyl Accident and Special Health Care Programmes: Report of the UN Chernobyl Forum Health Expert Group, Editors Burton Bennett, Michael Repacholi and Zhanat Carr, World Health Organization, Geneva, 2006. Also available at: www.who.int/ionizing_radiation.
UNSCEAR (2000) United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation. 2000 Report to the General Assembly, with Scientific Annexes. Volume II: Effects. New York. United Nations. Also available at: http://www.unscear.org/unscear/index.html
BEIR VII report (2006) Health Risks From Exposure to Low Levels of Ionizing Radiation, National Research Council, US National Academy of Sciences. National Academy Press, Washington (http://www.nap.edu)
A summary of the cancer findings is also available (from 24 April 2006) in the Journal of Radiological Protection (Cancer consequences of the Chernobyl accident: 20 years after. vol 26(2), pages 125- (on-line doi:10.1088/0952-4746/26/2/001) .
#11 mSv は1 Svの1/1000です。
#2これらの線量は自然放射線量に加算されます。
放射性核種(非安定原子)の放射能はベクレル(Bq)という単位で示されます。
1 Bq=1秒間当たりの崩壊数、kBq/m2 =1平方mあたりに1000 Bqの放射性核種
ここに示された37 と 555 kBq/m2は、当時、ソ連の当局が放射能の沈着の程度を分類分けするために使われていた基準です。
2006年4月24日に、チョルノービリ(チェルノブィリ)事故がヨーロッパに負荷した発がんの推計(estimates of the Cancer Burden in Europe from the Chernobyl Accident)」が、「The International Journal of Cancer」誌内とIARCのウエッブサイト(www.iarc.fr.)に掲載される予定です。
訳注
この文書は教育用にWHOの Fact sheet N°303を翻訳したものです。
1986-2016: CHERNOBYL at 30
翻訳にあたって、多田順一郎先生(SPring-8/ JASRI)の援助を受けました。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
Health effects due to radiation from the Chernobyl accident(pdf file, 5.8 MB)
発信元: 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
発信時期: 2008年
内容: 1989年のベラルーシ・ウクライナ・ロシアにおけるCs-137レベルのマッピング、未就学児への影響に関する調査、スウェーデンのヘラジカ(ムース)のCs-137の蓄積量の経年変化等、様々なデータが記載されています。
国立がんセンターによる説明資料
国連科学委員会報告 2008年 チェルノブイリ事故の放射線の健康影響について(pdf file, 434kB)
国際原子力機関
Environmental Consequences of the Chernobyl Accident and their Remediation: Twenty Years of Experience
Report of the Chernobyl Forum Expert Group ‘Environment’(pdf file, 9.1 MB)
URBAN DECONTAMINATION
AGRICULTURAL COUNTERMEASURES
などの経験がまとめられ、推奨される方法が提示されています。
ベラルーシでの菜の花の作付けは、The production of rapeseed oil in this way has proved to be an effective, economically viable way to use
contaminated land and is profitable for both the farmer and the processing industry.
とあり(80ページ)、土壌浄化ではなく、汚染した土地の有効利用として有効と記述されています。
環境浄化などは、計画的に行うことが有効であることから、専門的な知識を有するNPO法人などの協力を得るとよいでしょう。
独立行政法人農業環境技術研究所による紹介
本の紹介 303: チェルノブイリ事故による環境影響とその修復:20年の経験、 チェルノブイリ・フォーラム‘環境’専門家グループ報告
IAEA videoChernobyl Nightmare
日本語説明
チョルノービリ(チェルノブィリ)の子供たち-25年経って(IAEAオフィシャルビデオ)
日本語説明
チョルノービリ(チェルノブィリ)の子供たち-25年経って(IAEAオフィシャルビデオ)
米国EPA
ベラルーシでの実践を踏まえた住民と保健専門職向けの資料
Guidance on Practical Radiation Protection for People Living in Long-Term Contaminated Territories(pdf file, 1.5 MB)
土壌汚染や廃棄物の扱い(Garden wasteを別扱いすることなど)も述べられています。
ICRP Pub.111のA9で記述されているpotassium treatmentは、農耕の際にカリ肥料を多量に使い、放射性セシウムの作物への移行を阻止して内部被ばくを低減するという手法です。土壌中のカリウム濃度は地域差があり、我が国では土壌中のカリウム濃度が高いとされています。このため、植物を使った土壌浄化法の実践が有利でない可能性があると考えられます。
Belarusでの ETHOS プロジェクトなどのレビュー
JAEA.原子力緊急事態時の長期被ばく状況における 放射線防護の実施と課題(pdf file, 1.4 MB)
ICRP Pub.111
(A 9)放射線学的防護に関しては、ビキニ環礁の汚染は、住民が島に戻り、永住することが許されたという意味では、潜在的現存被ばく状況の一つである。この帰島許可を可能にした防護対策の一つは、居住地域の土壌の除去と作物生産地域の土壌のカリウム処理である。土壌の除去により、島民がほとんどの時間を過ごす地域において、外部被ばくと内部被ばく(土の吸入および不慮の摂取)による線量が減少するだろう。
(A 10)カリウム処置(訳注: 土壌にカリウムを肥料のように添加する処置)は、全体的な推定放射線量に主に寄与する食品中のセシウム摂取による放射線量を減少させる。広範囲にわたる実験に基づき、4~5年毎に繰り返されるカリウム処置プログラムは、食品の国際貿易に用いられるFAO/WHOのコーデックス食品規格集にあるガイドラインを大きく下回るレベルまで、典型的なビキニ食品中のセシウム137濃度を減少させる。推定放射線量は、地場食品と輸入食品を混ぜて食べる通常の食事の場合は約0.4ミリシーベルト/年、地場食品だけを食べる場合は1.2ミリシーベルト/年まで減少する。
(A 11)その他の選択肢としては、居住地域と同様に、作物生産地域の表土を取り除くことである。この方法は間違いなく被ばくを減らすのに効果的であり、おそらくカリウム処置より効果的である。しかし、この方法は、安全な廃棄が必要な土をかなり大量に生み出すこととなる。さらに、代わりの土を輸入する必要がある。この選択肢の財政的、環境的、社会的コストはおそらく最初の選択肢よりずっと大きく、適切な最適化プロセスを経て評価する必要がある。
【出典】NIPH翻訳版
土壌浄化対策に関する論考
福島原発事故後の環境汚染とどう向き合うのか?(pdf fie, 209kB)
FAQ
ドイツに1年間滞在して平成10年に帰国しました。献血を行おうとしたところ受け付けてもらえませんでした。チョルノービリ(チェルノブィリ)事故の影響なのでしょうか?
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病対策として予防原則的にヨーロッパに滞在された方の献血をご遠慮いただいているものであり、チェルノブイリ事故とは全く関係はありません。
今でも線量は高いのですか?
1週間の滞在だと意識して井戸水、木の実、キノコを食べても体内のCs-137の量は20 Bq程度(=預託実効線量として0.3μSv程度)であったという報告があります。
この報告では、成田空港よりキエフの手荷物検査の方が低線量、チェルノブイリの短期滞在よりもキエフ往復飛行の方が高線量であることが示されています。
主任者コーナー.ある検出器屋の戯言.この人:(独)放射線医学総合研究所 緊急被ばく医療研究センター 被ばく線量評価部 外部被ばく評価室 鈴木敏和氏.日本アイソトープ協会.Isotope News No.587 (2010)
関連記事
農業における対策:チョルノービリ(チェルノブィリ)事故後15年における効率の評価その教訓。
心理面の影響に関する研究例
Subjective health legacy of the Chornobyl accident: a comparative study of 19-year olds in Kyiv(pdf file, 662kB)
原子力発電所事故がもたらす子供の心理面への影響が調べられています。
http://www.internetandpsychiatry.com/joomla/topics/other-psychiatric-disorders/657-a-25-year-retrospective-review-of-the-psychological-consequences-of-the-chernobyl-accident.html
解説例
山口一郎.【放射線と向き合う】低線量放射線の健康影響 チェルノブィリ事故の疫学調査を中心にして
特集 放射線と向き合う.公衆衛生 75巻11号 (2011年11月)
Political fallout: What fate awaits Chernobyl in the new world order?
Political Fallout: The Failure of Emergency Management at Chernobyl’
NICHOLAS DANILOFF. Chernobyl and Its Political Fallout: A Reassessment
OECD/NEA: Chernobyl: Chapter III. Reactions of national authorities
US NRC: WORKING DOCUMENT FOR CIIERNOBYL POST ACCIDENT REVIEW MEETING
IARA: CHERNOBYL: Looking Back to Go Forward
UNSCEAR: ASSESSMENTS OF THE RADIATION EFFECTS FROM THE CHORNOBYL NUCLEAR REACTOR ACCIDENT