原子力発電所事故後の現存被ばく状況での放射線防護のカテゴリーの記事は、保健福祉職員向け原子力災害後の放射線学習サイトに移行中です。
定義
空気カーマとは、非荷電電離放射線が空気と相互作用して、放射線のエネルギーが二次荷電粒子の運動エネルギーに転移したとき、相互作用をした空気の単位質量当たりから発生した二次荷電粒子線の、発生直後の運動エネルギーの総和[J/kg]で定義され、特別の単位として[Gy:グレイ]を使います。(Kerma:kinetic energy released per unit mass)
空気カーマって空気吸収線量とどう違うの?教科書には、荷電粒子平衡が成り立つ場合には、空気中の衝突カーマと吸収線量は等しいなどと書かれているけど、意味が理解できない。
同じところから考えてみたらどうじゃろ。
同じGyって言う単位で、大きい領域だけじゃなくて、小さい領域でも考えられることかな。
吸収線量やカーマは線量を考える(微小)領域で起こる放射線と物質の相互作用の大きさを示すものじゃ。
じゃあ、違いは何?
違いは吸収線量がその領域内のエネルギー収支(核反応や素粒子反応が起きない場合は、その領域に放射線が運び込むエネルギーとその領域から運び出すエネルギーの差になる)に着目するのに対して、カーマはその領域で発生した二次荷電粒子が持つ発生時の運動エネルギーに着目することじゃ。
エネルギーを与えるってどういうこと?
放射線が物質に与えるエネルギーとは、二次荷電粒子を介して、その領域内で物質の電子系へ電離エネルギーを付与することじゃ。
収支を考えるってどういうこと?
放射線は照射された範囲一体の空気などで二次電子を生成するから、線量評価対象領域外部で発生した二次電子がその領域に入り付与するエネルギーと、対象領域内で発生した二次(荷電粒子)電子が領域外まで移動した後に失うエネルギーのバランスが異なると、その領域に与えるエネルギーの量はいくらでも変わり得るから、エネルギー収支が重要じゃ。
なるほど、吸収線量は、評価領域に入ってくる二次電子と出て行く二次電子が等しくない(=二次電子(荷電粒子)平衡が成り立たない)と、その収支を示さないと意義を持たないということか。
一方、カーマの概念は単純じゃ。注目する領域内で発生する二次電子(荷電粒子)のエネルギーだけを考えればよいのじゃ。
でも、カーマには衝突カーマと制動カーマがあるみたいで、それでみんな混乱しています。
そもそも、カーマは、非荷電粒子の電離作用のみを考えた概念じゃ。その結果、発生した二次電子(荷電粒子)がその後どうなるのかには関与せん。ところが、ICRUが、「二次荷電粒子が衝突損失で失うエネルギーも放射損失で失うエネルギーもカーマに含まれる」、という意味の説明文をつけたため、「カーマに寄与するエネルギーは、二次荷電粒子の衝突損失と放射損失の合計である」という、いわば本末転倒の定義ができてしまったのじゃ。
う〜ん。単純だったお話が無理矢理複雑にされている感があります。なんだか学生にとっては不幸なお話みたい。
学校だときちんと説明があるはずじゃが、おさらいしてみよう。
よくテキストに書かれている、
カーマ=衝突カーマ+放射カーマ
とあるのは、
・衝突カーマや放射カーマが先にあって、その合計としてカーマを定義しているのではない
ことに注意して欲しい。
衝突カーマや放射カーマはバーチャルな量じゃ。
二次荷電粒子の発生点の外側にある媒質があったら、その物質の相互作用で消費されることが予測されるエネルギーに過ぎん。
衝突カーマや放射カーマをそれぞれ計測してそれを足し合わせるものではないのじゃ。
衝突カーマや放射カーマってどういうこと?
衝突カーマとは、二次荷電粒子の発生点の周囲に媒質があったならば、二次電子(荷電粒子)が方向を変えながら進行する際に、直接クーロン相互作用により電離や励起を通じて付与すると考えられるエネルギーの総和じゃ。
なるほど、直接電離作用か。放射カーマは?
放射カーマとは、二次荷電粒子の発生点の周囲に媒質があったならば、二次電子(荷電粒子)が制動放射や特性X線等に変換し再度非荷電放射線を発生させることで失うと考えられるエネルギーの総和じゃ。
なるほど、また、光子を介することによる間接電離作用か。
ある領域におけるカーマと吸収線量を考えた場合に放射カーマはその領域外で失うエネルギーであるとみなせますので、その領域と周囲との間で二次荷電粒子平衡が成り立つとすると、衝突カーマと吸収線量がほぼ等しいことが納得できるでしょう。
何だ、そんなことだったのか。用語が難しくてびびっていた。二次荷電粒子平衡のことは気にしないといけないのかなあ。
二次荷電粒子平衡は放射線診断で使われる比較的ビーム径の大きい放射線の場合には、そのビーム内の微小領域では十分に成り立っていると考えらる(ただし、物質の境界面近くを除く)。また、放射線診断で使用されるX線やγ線のエネルギー領域では、放射カーマとして失われるエネルギーは無視できるほど小さい(1.5 MeVの光子であってもその割合は0.4%に過ぎない)ので、カーマと吸収線量は同じであるとみなしてよいのじゃ。
概念は比較的単純だから、学生さんは迷い道に入り込まずについてきて欲しい。放射線になったつもりでお風呂の中で考えるとよいかも。
10個のX線光子(80kVの管電圧で発生させ2.5 mmのアルミニウムでろ過)を直径20 cmの水の円柱に入射させている。光電吸収によりエネルギーを失った光子やコンプトン散乱により方向を変えた光子や相互作用することなくファントムを透過した光子が確認できる。ただし、反跳電子や光電子の飛跡は短くこの図では確認が困難である。
出典:医療放射線防護連絡協議会「医療放射線管理測定マニュアル」
自由空気中の空気カーマ
医療法施行規則などでは、「自由空気中の空気カーマ率」という用語が使われています。
ここでの「自由空気中」とは散乱体からの後方散乱を含まないと言う意味です。
自由空気電離箱による 空気カーマ率の測定
よくないと思われる説明例
なお、「自由空気」とは、壁等によって空気の運動が妨げられることのないような空間にある空気のことをいう。
「空気の運動」が妨げられるかどうかがポイントではありません。
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FAQs
「もの」によって、吸収されるエネルギー[J]は重量あたりで異なるのではないですか?
そのとおり異なる。
このため、空気吸収線量や水吸収線量など吸収体を通常は明示している。
そもそも、吸収されたエネルギー量[J]をどうやって測るのですか?
吸収されたエネルギーは電離に費やされるので、
できた電荷量を計測している。
できた電荷は電圧をかければ集められるので計測できる。
(他にもあるが類似した原理)
吸収は厚いサンプルで100%起こっていると仮定して、やってきた電磁波あるいはβ線の持つエネルギー量を仮定するのですか?
飛んできた放射線が吸収体でどの程度のエネルギーを失うかは、
・吸収体の条件
・放射線の条件(種類やエネルギー)
に依存する。
通常は、全吸収されたピークの情報を使う。
吸収線量から飛んできた放射線粒子の個数への換算はこの性質を利用して計算できる。
遮へい体から飛んでくる二次電子の影響
空気吸収線量と空気カーマで違いが生じるでしょう。
図の説明
- 光子は60kVで加速した電子をタングステンに入射させ発生させ、Al 2.5 mmでろ過
- この光子を0.25 mmの厚みの鉛に入射
- 鉛から出てきた光子と電子をエネルギー別に計数
バーチャルな量
線量は相互作用量なので、物理的な再現が叶わない。乾燥空気は実在しない。学生さん達はこの実用量の話が始まった途端に、何やら怪訝な顔をし始める(私も学生の頃はそんな感じだったが…)。まず、ICRU球は物理的に再現できず、計算でしか求められない量であるという話をするが、再現できるものをなぜ使わないんだという学生さんの心の声が聞こえてくる。
学生さん達はこの実用量の話が始まった途端に、何やら怪訝な顔をし始める(私も学生の頃はそんな感じだったが…)。まず、ICRU球は物理的に再現できず、計算でしか求められない量であるという話をするが、再現できるものをなぜ使わないんだという学生さんの心の声が聞こえてくる。
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