事例の発端
A病院では、文部科学省の指示を受け、病院内に放射性同位体が不適切に放置されていないかどうか確認するために、院内をサーベイしていた。
驚いたことに、もっとも放射線管理が厳格で、放射性物質が放置されているとは考えられないX線診療室の放射線防護衣の保管場所で、明らかにBGよりも高い1,500~3,000 cpmの放射線が検出された。
(cpmはcount per minuteで一分間あたりの放射線粒子計測数)
このため、放射線技師長は放射線部部長と相談した上で、県庁の医療機器担当係に連絡した。
連絡を受けたあなたはどうしますか?
1.文部科学省原子力規制庁に連絡することを助言する。
2.放射線防護衣周囲の線量率を確認する。
3.製造販売業者に連絡するように助言する。
GMサーベイでの測定結果
GMサーベイでの測定は、放射線の数としての計数値でなされており、
線量率に換算できないとの回答であった。
国立保健医療科学院の医療放射線監視研修を受講した県庁職員に相談し、線量率に換算したところ、皮膚の吸収線量として多くても年間400 μSv程度であったとの回答があなたのもとに届けられた。
連絡を受けたあなたはどうしますか?
1.線量率は低いので何ら対策を講じる必要がないと回答した。
2.放射性核種を同定し、放射能量を推定するように助言した。
3.職員の臨時健康診断を行うように助言した。
近くの大学の放射線管理室に波高弁別できるサーベイメータがあり、それを用いて調べてもらったところ、この病院の核医学診療で用いている核種は検出されなかった。
カウントは低いエネルギー領域に留まり、研究施設で用いているトレーサー核種も検出されなかった。また、表面スメア試料では放射線は検出されなかった。大学の放射線管理室から専門機関を紹介され、分析したところ、核種はPb-210で濃度約200 Bq/gで1着あたり0.6 MBq含まれていることが判明した。
核種はPb-210であると連絡を受けたあなたは、どうしますか?
1.製造販売業者にその事実を伝え、在庫品でも調査するように伝える。
2.自然放射性物質であることから、文部科学省のウラン又はトリウムを含む原材料、製品等の安全確保に関するガイドラインに従って行動することとした。
実際の経緯
特定のロットで放射線が検出された。このロットは、ブラジルのある特定の鉱山で採鉱された鉛を原料に使っていた。これらの事実をもとに製造販売業者は特定ロットの製品の回収を決定した。
この事例の情報
(自治体としては和歌山県と大阪府がそれぞれ対応した)
PMDA
PMDAによる医療機器回収情報
「β線被爆線量当量」とあるのは、「β線による放射線被ばく(被曝)の線量は70 μm線量当量として」と解釈するのがよいでしょう。
文部科学省
医学放射線学会
【安全情報】 ピークX線防護エプロンの回収
より詳しい情報
Q.PMDAのリコール情報では、個人線量計から推計したとあります。
皮膚の線量を示すH(0.07)が0.4 mSv/hとの推計は妥当なのでしょうか。
A.
Pb-210は崩壊時に
最大0.0170 MeVの電子を0.84の割合で
最大0.0631 MeVの電子を0.16の割合で
放出します。
また、
46.5 keVの光子を4.3%の割合で放出し(ただし、3/4は内部転換電子にconversionする)10.8keVの蛍光X線を25%の割合で放出します。
しかし、線量により効くのは、Bi-210です。
Bi-210は崩壊時に最大1.162 MeVの電子を放出します。
鉛プロテクタや衣服を突き抜けた電子や制動放射がプロテクタを着用した皮膚にエネルギーを与えます。
簡易的に計算すると、
電子の平均運動エネルギーが 0.4 MeVとすると、
1崩壊で放出されるエネルギーは6.40E-14 Jです。
着用時間が 5 h/dとすると2790000 s/y
プロテクタのPb-210が 0.6 MBqでBi-210が放射平衡となっていて、
プロテクタ面積が3600 cm2とすると単位面積あたりの年間の崩壊数は
4.7E+08 decay/cm2/y となります。
ここで、そのうち半分の崩壊で電子が皮膚に入射し、200 μmまでで全てのエネルギーを失うとすると線量は、0.74 mGy/yになります。
ただし、この推計では電子の飛行方向を鉛直のみとし皮膚で効率的にエネルギーを失うとしているものの鉛プロテクタの自己遮蔽効果を見込んでいません。
もう少し正確にシールドを突き抜けたβ線と制動放射線の線量を見積もると皮膚との間にアクリル100 μmの衣服シールドがあれば、
1日5時間の着用でも、
0-200 μm: 7.9E-01 mGy/y
200-400 μm: 5.4E-01 mGy/y
400-600 μm: 3.8E-01 mGy/y
600-800 μm: 2.7E-01 mGy/y
800-10,000 μm:1.3E-02 mGy/y
に過ぎないようです。
図は濃い黄色が0.25 mmの鉛で均等にBi-210が存在と仮定しています。
その上が0.1 mmの衣服シールドで、さらに人体の表面を0.2 mmごとに4つに区切っています。
また、赤は電子の飛跡で黒が光子の飛跡です。
プロテクタの下側は空気にしています。
Q.Pb-210を含むために業者が自主的に回収した鉛プロテクタの事例はこれまであったのでしょうか?
A.米国では1996年にブラジルから輸入した鉛に比較的高い濃度(今回の事例とほぼ同じ程度です)のPb-210が含まれたことが判明した事例があります。
この事例でも業者が自主的に回収したようです。
その事例ではDOEからお知らせやNRCから情報提供【NRC INFORMATION NOTICE 97-50: CONTAMINATED LEAD PRODUCTS】がなされています。
また、FDAからお知らせも出ています。
一方、TENORM関連では、日本酸化チタン工業会は、低NORMチタン鉱石の適切な使用を推進するとしています。
医療機関で使われているその他の自然放射性物質
PETの検出器
Q.PETの検出器で使われるLSOのLu-176は規制対象ですか?
A.
LSOの密度は6.71g/cm3です。
シーメンス旭メディテック株式会社ではLSOのLu-176は38.7Bq/gであるとしており、
この濃度はわが国の規制下限数量(100 Bq/g)よりも低い値です。
従って放射性物質としての規制対象外です。
Q.線源を破壊しない場合に線量限度を超えるのはどのような場合ですか?
A.
PET装置のディテクタ中央での線量は1.5μSv/hです。
従って、総計666時間以上装置ガントリー中央部分に存在しないと1 mSv/年を超えません。
装置取扱者は装置近傍にいる時間は被検者の装置への乗り降り時が主であり、5分/患者、10名/日を一人で担当した場合に 50分、また校正用線源の取り付けを併せて、1日当たり約1時間、250日稼動としても、1 mSv/年を上回ることはないと考えられます。
Q.LSO検出器の廃棄はどうすればよいですか?
A.
添付文書には記述がありませんが、これまで修理時に交換したディテクタは全て製造元であるSIEMENSのMI事業部へ返送されており、ディテクタの廃棄時には製造販売業者に連絡するように指示がされているとのことです。
[戻る] 病院が文部科学省に連絡したところ、詳しく教えてほしいと言われた。詳細不明であることを伝えると、詳細不明のまま、事例を公開すると通告された。
[戻る]放射線防護衣から放射線が出ることはないので、核医学検査に関連して診療用放射性同位体で汚染したのではないかとの回答が得られた。
[戻る]不安に思っていた病院の心カテ担当の看護師は行政機関に不信をいだいた。その後、同様の事例が続出したので、労働組合は行政対応を批判することになった。また、この回答を受けて、医療機関は、産廃として線量率が高いプロテクタを産廃として廃棄したので、原因不明の放射性物質が投棄されたと廃棄物業者が態度を硬化させることになった。
[戻る]医療機関の産業医から、線量が小さく健康影響を及ぼす程度ではないので、緊急で健康診断を行う必要はないとの判断が示され、労働安全衛生法上の基準にも達しないので、臨時健康診断は行わないことになった。
[戻る]濃度は1 Bq/gを超え1着あたりの数量も8kBqを超えることから、国のガイドラインの第6章に従った対応を求めることとした。
劣化ウランが医療機関で遮へい体として使われていた例
劣化ウランが意図せず使われていた例
防衛省から管理下にない核燃料物質の発見について報告を受けました
参考情報
放射線医学総合研究所
韓国政府の取り組み
NORMに関して労働基準監督署が介入した例
岩盤浴タイルから放射線、製造の農業法人「ラジウム混ぜた」
2月22日7時50分配信 読売新聞岩盤浴用のタイルからは最大毎時6.25マイクロ・シーベルト、タイルの原料を入れた袋からは最大毎時29.6マイクロ・シーベルトの放射線量が検出
鹿児島労働局は(中略)、労働安全衛生法に基づき、作業を停止して従業員に健康診断を受けさせるよう命じた。
原子力規制庁
防護衣以外の検討事例
小山内暢、工藤幸清、北島麻衣子、對馬惠、細田正洋、田副博文、 赤田尚史、辻口貴清、細川洋一郎、齋藤陽子.放射線防護眼鏡中の天然放射性核種(Pb-210)の水晶体及び皮膚への影響
劣化ウラン
Depleted uranium: Sources, Exposure and Health Effects (WHO/SDE/PHE/01.1)
Surdyk S, Itani M, Al-Lobaidy M, Kahale LA, Farha A, Dewachi O, Akl EA, Habib RR. Weaponised uranium and adverse health outcomes in Iraq: a systematic review. BMJ Glob Health. 2021 Feb;6(2):e004166. doi: 10.1136/bmjgh-2020-004166. PMID: 33619039; PMCID: PMC7903104.
国際規制物資
規定設定例山梨県立中央病院計量管理規程
公立昭和病院核燃料物質に係る計量管理規程医療機関内での発見例国際規制物資の指定外保管について医療機関以外での発見例国際規制物資(硝酸ウラニル)の指定外保管について
弘前大学
関西大学
中京大学
埼玉県内の教育機関
新宿区内の教育機関国際規制物資の使用等に関する手続き
公立昭和病院核燃料物質に係る計量管理規程
医療機関内での発見例国際規制物資の指定外保管について医療機関以外での発見例国際規制物資(硝酸ウラニル)の指定外保管について
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医療機関以外での発見例国際規制物資(硝酸ウラニル)の指定外保管について
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新宿区内の教育機関国際規制物資の使用等に関する手続き
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新宿区内の教育機関
国際規制物資の使用等に関する手続き
1.管理下にない核燃料物質の発見に係る報告書の記載要領について
アイソトープ協会では引き取っていません。
国際規制物資に関する許認可申請、変更届(様式等)
制度の見直し
国際規制物資の使用等に関する規則の全部を改正する規則(案)に対する意見公募について
国際規制物資の使用等に関する規則等の全部改正について(参考)