まとめ
当事者の気持ちに添って、彼らの疑問に答え、よいルール作りを目指そう。
ポータブルX線検査の介助に不安を持つのは自然なこと
ポータブルX線は、患者さんを放射線部まで連れて行かなくてよいのは助かるけど、X線装置が近くに来るのはなんだか怖いわ。
これもトレードオフだね。
どこで検査すべきかは患者さんの視点で考えるべきだと思うけど、ポータブルでの放射線防護のことを考えてみたいと思います。
福岡県放射線技師会の放射線管理委員会では、第1回「放射線管理委員会学術講演会」で「本当にプロテクターは、必要か」というタイトルで議論されたようじゃ。
この講演会の資料を使って考えてはどうかな。
福岡県放射線技師会の放射線管理委員会のサイトで講演会の履歴をクリックすればよいね。
Q&Aでは、Q.ポータブルX線撮影に伴う病室内の散乱線
という質問が扱われています。
ポータブル撮影の際、同室の患者さんは移動させたほうが良いのでしょうか。
法律の規定は?
法律では全く規定されていないのかしら?
電離則の第一条が適用されるのではないかな。(放射線障害防止の基本原則)
第一条 事業者は、労働者が電離放射線を受けることをできるだけ少なくするように努めなければならない。
医療機関内の患者が受ける線量は、自らの診療分を除き、3月間で1.3 mSvを超えないようにとされているみたい(医療法施行規則第30条の19)。
ポータブル撮影でプロテクタが必要?
プロテクタがあれば線量が減るはずだから、病院は看護師用のプロテクタを用意すべきじゃないのかしら!
合理的に達成できる限り低くという原則に従うのが前提になっているから、その必要性を病院で吟味するとよいのではないかな。
では、吟味してみよう。
まず、診療放射線技師のプロテクタの利用状況が尋ねられているけど、ケースバイケースになっているようだ。
さすがにプロだから、ケースバイケースの判断で問題はなさそうだ。
「看護師の態度に弊害を感じている」とはどういうこと?
でも、7割の診療放射線技師は、看護師の態度に弊害を感じている
ってどういうこと!
看護師の意見は?
では2施設、380人の看護師の意見を見てみよう。
・放射線の影響で心配なのは、胎児への影響や不妊。
・半数がポータブル撮影の介助に抵抗がある。
・その理由は95%が「放射線をあびるから」。
その通りじゃないの?
自由記載の意見を読んでみます。
看護師からのアンケートでのポータブル撮影の意見
1) ポータブル撮影時 技師の対応が違うのでよく判らない。たとえば「離れなくて良い」と言う技師もいれば「離れて下さい」と言う技師もいる。
2) 大部屋で撮影するときは他の患者にも説明してほしい。
3) 小児病棟での撮影は、母子同室であり中には妊娠している人もいるのでポータブルの時はスタッフだけでなく同室の患者 家族にも配慮して声かけを行ってほしい。
これも、全部、その通りじゃないの?
でも、「9割の看護師が放射線の被ばく線量について正確な知識はなかった。」ってまとめるってどういうこと?
放射線部からわかりやすい教育が提供されていないのが悪いのじゃないの?
測定の結果は?
結果の最後は線量測定です。
距離1 m では1µSvを超えることもあるけど、2 m離れれば確実に1µSvを下回るとなっています。
限度はどの程度ですか?
一般公衆では年間1 mSvじゃ。これも多くが取るに足らない線量に過ぎないが、核医学検査を受けた患者の病棟でのケアなど複数の曝露機会を考慮した場合には、それぞれの線源からの曝露300µSv以下にすることがICRPから勧告されておる。
週5回の介助でも2 m離れればそれを下回るね。
1µSvは「宇宙線から1日に受ける線量」とあるから問題ないと思うけど。
1日の線量を一瞬で受けても大丈夫?
1日かけて少しずつ受けるのと一瞬で受けるのは結構違うのじゃないかしら。
低線量では低線量率と同じような生物影響を示すことが知られておる。
それに放射線リスクは高線量率曝露をもとに推計している。
じゃから、X線検査の時の線量による影響を高線量率曝露だから、過小評価するということは考えがたい。
ポータブルX線検査の介助として看護師に何が期待されているのか?
「介助が必要なのに看護師が退室してしまう。」と言われる診療放射線技師は、2 mの距離での介助を求めているのかしら。
そうじゃないとプロテクタが不要という結論とは結びつかないと思うわ。
どのように介助するかで、介助時の線量が決まるので、話の前提としては大切かもしれない。
ポータブルX線検査の件数が多い場合
ICUで一日10回の撮影があったら、
1年間で4千近くになるわ。そのうち半分に従事すると2千回だから1回1µSvでも限度に達しそう。
それにたまに透視の介助もすることがあるけど、本当に大丈夫なの?
放射線業務従事者の場合、3月間の線量限度が5 mSvだから、きちんと線量をモニタリングしておくと、限度を超えていないことが確認出来るじゃろ。
福岡県放射線技師会の放射線管理委員会による提言
この調査結果からの<提案>がまとめられています。①胸部および腹部ポータブル撮影においてプロテクター着用は不要である。
②同室患者は、ベッド上で臥せている限り退室の必要はない。
③見舞い、付き添い者は、2m以上離れた位置であれば退室の必要はない。
(ただし、すべての場合において線束方向に同室者がいる場合は退避措置をとる)
リスクが小さいから、特別な防護は必要ないということね。
でも、ポータブル撮影する診療放射線技師は、それぞれの病棟での業務もあるから、業務量が多いのであればきちんと防護した方が家族も安心するのじゃないかしら。
ポータブル業務に従事する診療放射線技師には一定程度の防護能力のある防護衣を着用することが一般には推奨されておる。
これはその業務を繰り返すことを前提にしているので、
「胸部および腹部ポータブル撮影においてプロテクター着用は不要」とあるのは、
それ以外のスタッフを念頭においているのかもしれない。
業務前に見積もりは出来るし、業務後に測定値を確認しているから、プロのことは心配しなくてもよいのじゃないかなあ。
みんなが気持ちよく働けるためにどうすればよいか?
どこまで防護すべきかは、受けるリスクの大きさによるが、その前提となるルールづくりでは関係者の理解を促進するのがよいのではないじゃろか。
その観点からは、関係者に理解できて興味を持ってもらえる教育を提供することが重要ではないかな。
リスクが小さくても、相手の気持ちを考えると言うことだね。
この調査で明らかになった問題点が、研修など医療機関の取り組みで解消したことが示せるとよいのじゃないかしら。
医療機関での取り組み例
星総合病院
獣医療でのポータブル
(出典:放射線診療技術研修支援システム -社団法人 日本獣医師会-)
日本獣医師会による放射線防護研修のための充実したシステムです。
放射線防護法で何が最適化は、状況や考え方にも依存します。
電離放射線障害防止規則
立入禁止
第十八条 事業者は、第十五条第一項ただし書の規定により、工業用等のエックス線装置又は放射性物質を装備している機器を放射線装置室以外の場所で使用するときは、そのエツクス線管の焦点又は放射線源及び被照射体から五メートル以内の場所(外部放射線による実効線量が一週間につき一ミリシーベルト以下の場所を除く。)に、労働者を立ち入らせてはならない。ただし、放射性物質を装備している機器の線源容器内に放射線源が確実に収納され、かつ、シャツターを有する線源容器にあつては当該シャツターが閉鎖されている場合において、線源容器から放射線源を取り出すための準備作業、線源容器の点検作業その他必要な作業を行うために立ち入るときは、この限りでない。
2 前項の規定は、事業者が、撮影に使用する医療用のエックス線装置を放射線装置室以外の場所で使用する場合について準用する。この場合において、同項中「五メートル」とあるのは、「二メートル」と読み替えるものとする。
隣の病室の患者が受ける線量
現場での調査例
公益法人星総合病院放射線科 平岡陽子.病棟におけるポータブル撮影についてのアンケート集計結果
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Mobile X-rays
とてもわかりやすいパンフレットが作成されています。
小野 孝二,加藤 知子,伴 信彦,草間 朋子.看護管理者を対象にした“放射線看護”に関する研修の経験
日本診療放射線技師会
第20回講習会モンテカルロ法を使用したポータブル撮影時の散乱線の推定とポータブルならびに外科用イメージの利用における放射線安全管理
日本看護協会
専門職支援 ・ 中央ナースセンター事業部
平成 24 年度看護職のワーク ・ ライフ ・ バランス推進ワークショップ事業報告書 Ⅰアクションプラン⑤レントゲン技師による患者移送
IAEA
TYPES OF EXPOSURE SITUATION AND CATEGORIES OF EXPOSURE
2.5 A nurse working on an inpatient ward where occasional mobile radiography is performed by a medical radiation technologist would also be considered to be occupationally exposed; however, because in this case the radiation source is not required by or directly related to the work, this nurse should be provided with the same level of protection as members of the public (see para. 3.78 of GSR Part 3 [3]).
ポータブル撮影を介助する看護師は放射線診療従事者以外となり一般公衆の線量限度が適用されるとありますが、日本の労働安全衛生法だと、「occupationally exposed」でも反復継続であれば、放射線診療業務に常時従事に該当すると判断されているようです(従って、線量限度の労働者に対するものが適用されることになる)。
3.69. For mobile radiography:
(a) Operators should wear lead aprons and should maintain as much distance as possible between themselves and the patient (to minimize exposure to scatter radiation), whilst still maintaining good visual supervision of the patient and being able to communicate verbally with him or her.
(b) Other staff (e.g. nursing, medical and ancillary staff) are not considered as occupationally exposed workers and hence should be afforded protection as a member of the public. This is achieved by ensuring such persons are as far away from the patient as possible during the exposure (typically at least 3 m) or are behind appropriate barriers.
(c) In situations in which a member of staff needs to be close to the patient, protective aprons should be worn (e.g. an anaesthetist with a ventilated patient or a nurse with an unstable patient).
(d) Verbal warning of an imminent exposure should be given.
(e) Consideration should be given to other patients nearby (see also para. 3.276 on public radiation protection).