パノラマ撮影で、どの程度の線量が室外に漏れるのかしら?
X線診療室の扉はきちんと放射線を遮へいするように作られていて、パノラマ撮影では照射される線量が小さいので、扉を閉じて撮影していると漏洩線量を検出するのはかなり難しい。
計算するには、散乱線の量を考えるとよいのじゃないかな。
どうやって計算しているの?
散乱線の量は、散乱体(=患者さん)に入射する一次線の強さとビームサイズで決まる。
管電圧90kVで電子を加速して制動放射させる場合には、
X線管の焦点から1 mでの一次線の強さは60µGy/mAsになる。
X線管の焦点から被写体への距離を20 cmとすると、散乱体に入射する一次線の強さは1,500 µGy/mAsとなる。
1 mで60µGy/mAsだから0.2 mだと25倍になるのね。
距離が結構効いてくるのね。
実効稼働負荷を厚生労働省の188号通知(医政発0315 第4号通知に置き換わっています)(pdf file, 188kB)に示されている例である700 mAs/3月間(1スライスが10 mAsとすると70回/3月間)を用いると、
散乱体に入射する線量は、1Gyとなる。
歯科のパノラマでも3月間全部足すとその線量は少ないとは言えないようね。
いやいやビームのサイズが小さいから、その分は小さくなる。
患者さんの周囲の線量はどの程度になるの?
照射野のサイズを15cm2(15cm×1cm)とすると、
散乱比(散乱体に入射する線量と散乱体から距離1 mの散乱線の線量の比)が0.1%であることから、600µSv程度になる。
GyからSvに変わったのは、空気カーマ(=空気吸収線量)から防護量としての実効線量に変わったからね(換算係数は1.433)。
距離10 cmだと60 mSvだということは、歯科の検査でも室内でずっと介助したらそれなりの線量になるって言うことね。
歯科診療だとIVRのようにずっと室内にいるということはないと思われるが、1/60の介助でも線量限度に達しうる。
だから放射線防護が大切なのじゃ。
未だにデンタルチェアのところにX線装置があって診察室で放射線を使うことがあるから、その場合はスタッフへの防護が必要そうね。
歯科放射線診療では線量が小さいように思っていたけど、遮へいはどの程度必要なの?
まず散乱体から壁までの距離を考えると1.5 mあれば、線量は半分近くになって270 µSv/3月間になる。
管理区域の境界の線量限度が250 µSv/3月間だから、それとほとんど同じレベルね。
この程度だと遮へいは不要じゃないの?
口内法撮影や方向によっては直接線の影響も考慮する必要があるだろう。
きちんと安全側にしておかないと従事者が安心して勤務できないのじゃないかな。
もっとも在宅診療では防護衝立は不要じゃ。
確かに、放射線は測らないとわからないから、きちんと遮へいできているかどうか定期的に測定すると安心ね。
コストとの兼ね合いにもなる問題だが、IAEAのBSSが改定されているタイミングなので、どの程度までコストを費やして管理測定するのがよいか関係者間で合意を形成するとよいのではないじゃろか。
無駄なことにコストをかけるべきではないじゃろ。
実態調査の例
境野 利江, 佐藤 健児, 原田 康雄, 西川 慶一, 小林 育夫, 岡野 友宏, 代居 敬, 佐野 司.一般歯科診療所のパノラマX線撮影における患者線量
dental cone beam CT
Radiation: protection and safety guidance for dental cone beam CT equipment
全国歯科大学・歯学部附属病院診療放射線技師連絡協議会
Q.乳幼児や身障者の撮影で、誰かが押さえなければ撮影できない場合は、誰が押さえるのが良いのでしょうか。
A.動いたり、姿勢がくずれたりしてどうしても撮影できない場合には、通常、患者さんの付き添い家族の方に押さえていただきます。
上手く押さえられない場合や複数の人数が必要な場合など医療従事者も押さえる場合があります。被ばくが一定の人に集中するということで好ましくないのですが、その時は職業被ばくとして扱われます。
日本歯科放射線学会
医療スタッフの放射線安全に係るガイドライン公開について
歯科医院における診療用放射線の安全利用のための指針モデル
歯科診療所における診療用放射線の安全管理ガイドライン
日本歯科放射線学会「COVID-19流行下における歯科エックス線撮影の対応に関する指針」について
歯科診療所における診療用放射線ガイドラインと歯科診療所の指針モデル公開のお知らせ
FAQ
Q.受像器を医療従事者の指で保持することは適切でしょうか?
A.⽇本⻭科放射線学会では、「携帯型口内法X線装置による手持ち撮影のためのガイドライン 2023 年改定版」を発行しています。
このガイドラインでは、繰返し回数が多くなることが想定される放射線診療従事者の防護に関して、以下のような記述があります。
(4) 受像器の固定には専用の保持具を使用する。装置の操作者や撮影補助を行う医療スタッフが受像器を指で固定する場合には、直接 X 線による被ばくを防ぐために、X 線の照射方向に立たないようにするとともに、防護手袋を着用する。
また、撮影時に撮影補助を行う患者家族等の防護に関しては、予防的な対策として、以下のような記述があります。
(3) 受像器の固定には専用の保持具を使用する。受像器の固定を指で行わせる場合には、防護手袋を着用させる。
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