甲状腺機能亢進症で放射性ヨウ素を投与された方へ

国際原子力機関のSafety Reports Series No.63のFAQの紹介です。

東京電力福島第一原子力発電所から放出された放射性ヨウ素と母乳

赤ちゃんが受けるリスクは十分に小さいです

母乳を介して乳児が受ける線量

I-131を摂取した母親の授乳により乳児が受ける線量は母親の摂取量あたり5.4×10-5 mSv/Bq程度です(ICRP Pub.94 Table 13.1。この線量は、母親の摂取時期別の乳児への実効線量として与えられています。妊娠15週に摂取した場合では3.4×10-16 mSv/Bq、妊娠35週に摂取した場合では1.3×10-10 mSv/Bqとされています)。母親の摂取量が少ないので(300 Bq/kgの水を1l飲んだ場合の乳児の母乳を介した線量は、2×10-2mSv)、乳児のリスクも十分に小さく(=介入線量よりも2桁小さい)無視できると考えられます。
母乳中の放射性ヨウ素による乳児のリスクはどの程度ですか?
300 Bq/kgの水を毎日2l母親が飲んだ場合には、乳児では一日の摂取あたり4×10-2mSvの甲状腺の預託(=甲状腺に摂取されたI-131から将来にわたって与えられる)等価線量(=放射線の種類を考慮した各臓器の平均線量)ですので100日間飲み続けてはじめて40 mSvになります。
放射性ヨウ素は半減期8日間なので環境中で存在する量はすみやかに減少していくと考えられます。

甲状腺機能亢進症で放射性ヨウ素を投与された方へ

放射性ヨウ素は甲状腺の問題を治療するために投与されます。
ほとんどの投与された放射性ヨウ素は尿中に排泄されます。
投与後に医療機関の管理区域から退出できたということは、あなたの体内の放射性ヨウ素の量が基準以下か、あなたの周囲の方が受けるであろう線量が基準以下になっていることを意味します。
しかしながら、数週間はいくばくかの放射性ヨウ素が体内に留まるために、あなたの近くに来た人は放射線を受けることになります。
あなたの家族や友人、同僚などを守るのはあなたの責任です。
次のFAQは、あなたの日々の生活で守るべき注意事項を示すものです。
もし、ここで示した以外の質問があれば主治医かかかりつけの医療機関にお尋ねください。
以下の注意をどの程度の期間守るべきかは主治医から既に説明されていることでしょう。


Q1.もっとも気をつけることは何ですか?
A1. 家庭でも職場でも他人のそばに座ったり、近づいたりしないようにしましょう。
距離を1 mを取るようにしましょう。
1時間以上近接する場合には2 m以上の距離を取るようにしましょう。

Q2.妊婦との接触はどうですか?
A2.妊婦との接触は最小限にしましょう。
少なくとも距離を2 m取るようにしましょう。

Q3.妊娠するのは安全ですか?父親になるのは安全ですか?
A3.治療後4ヶ月以内は避けましょう。

Q4.子供の世話はできますか?
A5.10歳以下の場合には、可能であれば抱きしめるなど体に近づける行為は避けてください。子供の方が成人よりも放射線リスクが大きいので、示された期間からさらに1週間は不必要な接触を避けることが推奨されます。

Q5.乳児の場合はどうですか?
A5.2歳以下の子供の世話は他の人にお願いしましょう。もし可能であれば同居も避けるのがよいでしょう。他人にお願いできない場合には、主治医に注意点を尋ねましょう。添い寝するとか膝の上で似寝かせるなどして、子供を長時間、近づけすぎないでください。

Q6.母乳を与え続けても良いですか?
A6.しばらくの間、放射性ヨウ素は母乳に移行します。
このため、母乳保育は中断しましょう!

Q7.家庭内で伴侶などに近づいても良いのですか?
A7.抱き合うことやセックスで近接することは、一日30分以内としなければなりません。
睡眠時は同衾を避けましょう。
間に壁があっても寝る場所は 2 mは離しましょう。
なぜなら家屋内の壁は放射性ヨウ素からの放射線を遮る能力が十分ではないからです。

Q8.(夫が投与されて)妻が妊娠した場合にはどうすればよいですか?
A8.妊娠した伴侶とは距離を保つことが重要です。

Q9.60歳以上でもこれらの注意を守った方がよいですか?
A9.60歳以上では放射線リスクはずっと小さくなります。
このため、 特別な注意の必要性は小さくなります。

Q10.家に誰かを招いても良いですか?
A10.2時間以内の短期間の訪問は問題ありません。
距離を 2m以上取り、できるだけ近くに寄るのを避けてください。
ただし、小児や妊婦が訪問するのは望ましくありません。

Q11.仕事に行っても良いですか?
A11.できれば退院後2日間は職場復帰を遅らせましょう。
もし、この方法が実際的でなければ、 主治医に相談しましょう。
主治医はあなたの状況を考えて調整してくれるかもしれません。
もしも、仕事の必要上、一日2時間以上、特定の同僚のそばいる場合には、主治医に助言を求めましょう。
その場合は、上司にも事情を話しておかなければなりません。

Q12.保育園に勤務していたり、妊婦と仕事をしている場合はどうですか?
A12.保育園勤務などで、仕事中に小児と密着する場合には、仕事を控える必要があります。
同様に妊婦と仕事をしている場合にも配慮が必要です。
主治医は、この制限がどの程度の期間必要であるか示してくれるでしょう。

出典

国際原子力機関のSafety Reports Series No.63

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記事作成日:2010/01/24 最終更新日: 2020/01/05