原子力発電所事故後の現存被ばく状況での放射線防護のカテゴリーの記事は、保健福祉職員向け原子力災害後の放射線学習サイトに移行中です。
関連記事
計画的避難区域と線量限度
計画的避難区域は、「国際放射線防護委員会(ICRP)と国際原子力機関(IAEA)の緊急時被ばく状況における放射線防護の基準値 (20~100ミリシーベルト)を考慮」(pdf file, 193kB)して、「事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベ ルトに達するおそれのあるため」避難が求められています。公衆の線量限度が1 mSv/yであることと矛盾しないのですか?
公衆の線量限度は、計画的被ばく状況に適用される考え方です。
緊急時には適用されません。
日本学術会議会長談話
放射線防護の対策を正しく理解するために(pdf file, 127kB)
緊急時の飲食物の摂取制限
緊急時の飲食物の摂取制限では、放射性セシウムは年間5 mSvが参考レベルとして導入されていますが、この参考レベルがどうやって算出されたか明確ではないように思えます。どのような考え方によるのですか?
参考レベルとしての回避線量は最適化の考え方で導入されています。
回避線量分のリスク低減をもたらすのであれば、介入が正当化されるという判断がなされています。
今後、飲食物の摂取制限に係る介入参考レベルをどう設定するかや設定された参考レベルを各食品にどのように分配するかは、関係者間での合意形成が求められる課題です。
飲食物以外でも汚染した空気の吸入による内部被ばくや周辺環境にフォールアウトした放射性物質から放出される放射線による外部被ばくも考慮して、飲食物摂取制限を決めるべきではないですか?
現在の飲食物の摂取制限は、汚染した食品の摂取を制限するか否かの観点で、参考レベルが設定されています。
他の曝露も考慮して、参考レベルを決定するかどうかは、今後考えるべき課題でしょう。
IAEAの一般安全要件(GSR Part 3)での考え方
現存被ばく状況での公衆被ばくの制御に関する、建材、食品などの参考レベルは、それぞれ実効線量として年間1 mSvを超えないように設定すべきとされています。Requirement 51: Exposure due to radionuclides in commodities
The regulatory body or other relevant authority shall establish reference levels for radionuclides in commodities.
5.22. The regulatory body or other relevant authority shall establish specific reference levels for exposure due to radionuclides in commodities such as construction material, food, feed and drinking water, each of which shall typically be expressed as, or based on, an annual effective dose to the representative person generally that does not exceed a value of about 1 mSv.
線量限度
平時でも公衆が受ける線量は年間1 mSvを超えていると聞きました。線量限度が守られていないのではないですか?
線量限度は計画的被ばく状況に適用される概念です。
社会で必要があって用いる線源に伴い公衆などが受ける線量を制御するために使われます。
つまり、計画被ばく状況で用いられる線量限度は個人毎の生活すべてのトータル線量を制御しようという思想に基づくものではありません。
関連記事
「国際放射線防護委員会が勧告している公衆の年間線量限度」が、自然放射線世界平均より低いのはなぜでしょうか?
線量限度を破っている人が世界の過半をしめるような勧告は意味がないような気がするのですが。
線量限度
線量限度は、計画被ばく状況に対して与えられるもので、線源の種類毎に考える線量拘束値により担保されるものです。
計画被ばくに対しては、線量限度を超えないように放射線管理することが求められています(管理できないプレーヤーはマーケットに出る条件を満たしていない)。
私たちが日常曝露する放射線の量は、公衆の線量限度を超えています。
しかし、この線量は、計画被ばく状況での曝露には該当しない、自然放射線に由来するものであるので法令違反には該当しません。
線量限度は、自然放射線レベルも考慮して決められていますが、そのレベルを引き上げる必要性には乏しいと考えられています。
何故なら、今の線量限度を放射線取り扱い施設である医療機関などでは容易に達成でき、クリアランスされた廃棄物から受ける線量も線量限度に比べて小さくすることができるからです。
参考レベル
現存被ばく状況での参考レベルは、対策の最適化を図るためのツールです。
どこまで線量を低減するか?
これらは、線量を制御しやすい線源からは、線量を減らす努力をし、線量を制御しにくい線源からの線量は、制御を諦めて受け入れるという性質があると考えられます。
ある線源からの線量をどこまで制御できるかは、経済的な環境に依存します。
また、ある線源からの線量をどこまで低減したいと考えるかは、文化にも依存します。
屋内ラドンを管理対象にしている国はありますし、ECでは建材中のK-40もActivity concentration indexの評価対象とし外部被ばくの制御対象としています。
では、線量限度は、「総量としての限度ではなく、追加的に浴びる線量の限度」だという理解で良いでしょうか?
その理解でよいと思います。
感覚的には、自然の状態で何倍もの放射線を浴びているなら、もっと基準値を上げても良いような気もしますが、上げる積極的な理由がないということですね。
自然放射線も受ける量が多いとリスクが観測されています。
このため、介入が必要なレベルがICRPによりバンドとして示されています。
自然放射線であっても高い線量であれば、それを下げることに意義があると考えられています。
それより低いレベルでは介入が正当化されそうにないとされています。
このように現存被ばく上での参考レベルは最適化の考え方で設定されています。
WHO ラドンハンドブック
線量限度では内部被ばくは考慮されないのですか?
放射線リスクの評価では、被ばくの形式は区別せずに、外部被ばくも内部被ばくも同様に考えます。
従って、内部被ばくを考慮すべき状況では、内部被ばくも考慮されます。
計画被ばく状況で用いられる公衆の線量限度は小児に適用することを考えると1/3に引き下げるべきではないですか?
線量限度は小児も考慮して定められています。
ICRP Task Group 84
公衆と労働者で適用される線量限度が異なるのは何故ですか?
線量限度も最適化の産物です。
労働者の線量限度は、労働者の放射線感受性ではなく、むしろ他の産業でのリスクとの比較で設定されています。
解説例です。
参考レベル
参考レベルでは内部被ばくは考慮されないのですか?
参考レベルの種類に依存します。
外部被ばくを制御する参考レベルである場合には、介入するかどうかで変わりうるのは外部被ばくだけなので、内部被ばくと切り離して考えることもできます。
介入するかどうかで外部被ばくの大きさだけではなく、内部被ばくの大きさも変わる場合には、内部被ばくも考慮することになります。
参考レベルはバックグラウンドの線量を含むのですか?
適用される状況で異なっています。
介入後の現存年線量で与えられている場合と回避線量で与えられている場合があり、それらは明示されています。
参考情報
放射線被曝によるリスクとその他のリスクとの比較 (09-04-01-03)
労働者の放射線防護
放射線審議会声明: 緊急作業時における被ばく線量限度について
ICRPが参考レベルをバンドで与えているのはどうしてですか?
国によって、どの参考レベルをどの程度にすべきかが異なり得るからです。
ICRP 82での勧告
介入が正当化されそうにない一般参考レベル(それ以下では、介入は選択肢であるが、正当化されそうになく、また、それより上では介入が必要かもしれない)が、現存年線量(ある与えられた場所における長期被ばくの全ての線源に起因する全ての「長期」年線量の総和)で与えられていて、その数値は<〜10 mSvとされています(表1)。2007年勧告では、このカテゴリは〜20 mSvになっています。
また、介入に対して勧告される一般参考レベルでは、「これらの成分の一つまたはそれ以上を減らすための介入がおよそ10 mSvよりずっと低い現存年線量で正当化される状況がある。(中略)国の当局はーその特定の成分に固有の対策レベルのようなー一般参考レベルの適切な割合に基づきうる特定参考レベルを制定することが役に立つと分かるであろう。」と記述されています(80項)。
参考レベルの決定方法
放射線リスクの大きさだけではなく総合的に判断する必要があります。
参考レベルは最適化の産物です。
受け入れられる放射線リスクの大きさが状況に依存するという思想です。
その他
校舎内での線量低減効果を文部科学省はどのように見積もっているのですか?
文部科学省の考え方
福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について
屋内での線量低減効果は、「原子力施設等の防災対策について」の付属資料 10、表 −2 中 の木造家屋の低減係数:0.4 より引用されています。
このデータは、IAEAのTECDOC-225, PLANNING FOR. OFF-SITE RESPONSE TO. RADIATION ACCIDENTS IN. NUCLEAR FACILITIES(pdf file, 2.8 MB)から引用されています。
文部科学省の推計例
校庭等の空間線量率3.8μSv/hの学校の児童生徒等の生活パターンから推定される児童生徒等が受ける実際の積算線量の試算について(pdf file,213kB)
FAQ
学校で児童に花壇の清掃を行わせていますが、○○μSv/h以 上では作業を行わせてはいけないという基準はありますか?
トレードオフを考えるしかないでしょう
トレードオフものなので、基準が必要であれば、保護者とルール作りを教育委員会で進めるとよいのではないでしょうか。
リスク管理の基本的な考え方は、NIPHの研修でも学ぶことができます。
校庭利用に関するMEXTの考え方
学校等における放射線測定の手引き
福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について(通知)(平成23年8月26日)
福島県内における児童生徒等が学校等において受ける線量低減に向けた当面の対応について
放射線安全評価での留意点
花壇がキーワードであるとすると、β線放出核種を含む土壌を手で扱うことによる皮膚基底細胞への付与エネルギーや眼の水晶体への付与エネルギーをご心配なさっているかもしれません。また、β線放出核種を含む土埃を吸入することによる内部被ばくをご心配なさっているかもしれません。
これらは、モデル計算や計測で曝露量を精度よく推計できます。
心配なさっていることに対応した線量評価結果を示すとよいでしょう。
これまで除染を行ってきましたが、今後も続けていく必要がありますか?
どこまで除染するかはトレードオフで考えることができるでしょう。
環境中での放射性物質の挙動が疑問の背景にあるとすると、その疑問に答える情報を提供するのがよいのではないでしょうか。
保育園で採れた果物を園児に与えてよいですか?(昨年は自粛)
保育園で採取した葉っぱを用いて腐葉土を作っていますが、昨年は使用を控えました。今年は大丈夫ですか?
トレードオフなので、それによる線量の増加の程度などで判断するのがよいのではないでしょうか。
保護者側のご意向も重要でしょう。
農林水産省の考え方
放射線業務従事者として、原子力発電所で働いていました。放射線管理手帳には被ばく量が細かく記入してあります。管理区域では飲食禁止で、厳しく規制されていました。それに比べると今の状況は異様だと思います。今の状況が安全ならば、あれだけ神経を使ってきたのは何だったのでしょうか?
原子力災害後の現存被ばく状況は、計画被ばく状況があてはめられないがために設定されているもので、通常ではない状況だと考えられます。
安全かどうかは、リスクが受け入れられるかどうかで決定されますが、受け入れられるリスクの程度は状況によって変えざるを得ないと考えられています。
それぞれの状況に応じてベストを尽くすしかないのではないでしょうか。
これまでの対策が無駄であったかどうか(=効率的であるかどうか)は、環境経済学的な検討が参考になるのではないでしょうか。
放射性廃棄物とするクリアランス基準(濃度確認に係る放射能濃度はCs-134とCs-137で、それぞれ0.1 Bq/gとされ、ΣD/Cで判定されます)と食品の安全基準の濃度が同じなのが理解できません
計画被ばく状況でのクリアランス制度と現存被ばく状況での食品安全確保策のそれぞれが適切かどうかで判断するしかないのではないでしょうか。
計画被ばく状況で公衆の線量限度が1 mSvとしていたのが、現存被ばく状況では、ないがしろにされているのが理解できません
それぞれ置かれた状況でベストの対策が講じられているかどうかで判断するしかないのではないでしょうか。
東京都新宿区でも深さ5cmまでの土壌のCs-137濃度が、放射性廃棄物とすべき基準の5倍程度になっているのに、その土壌の上で子ども達を遊ばせている感覚が理解できません
今の現存被ばく状況において、それによる線量が容認できるレベルを超えているかどうか?超えている場合に、対策を講じることが合理的と考えられるかどうか、その対策を優先すべきかどうかなど総合的に考えていくしかないのではないでしょうか。
CODEXの考え方にも基づいたとされる日本の基準を各国(2013年8月5日現在では、11カ国を除く)が事実上、採用していないと思われるにも関わらず、日本の基準がCODEXの考え方に基づいているので国際的に問題ないとされているのが理解できません
現存被ばく状況でのリスク分配の難しさや信頼を獲得することの難しさやその他の要因を示すものだと考えられるのではないでしょうか。
そこに長時間滞在するわけでもなく、受ける線量が相対的に大きいわけでもありませんが、管理型処分場での埋設処分を求められるような、比較的少量であっても、高い濃度を持つホットスポットの汚染物をどう考えるのがよいですか?そのような濃度の汚れが住宅地内にあることを容認してよいのですか?
安全を確保するためには、リスクを受け入れられる程度にする必要があります。
このため、受ける線量を一定程度を超えないように対策を講じる必要があります。
リスクが受け入れられる程度かどうかは状況にも依存するでしょう。
その上で、よりリスクを下げるために、どの対策を優先すべきかは、 公衆衛生倫理の問題に帰着するでしょう。
福島市の地域ホットスポット除染や伊達市のCエリア(年間積算線量 1 mSv以上の地区を想定)での「「ホットスポット」を中心とした除染」例
原子力施設の安全審査指針類での放射線防護の考え方と事故後の対応とのギャップ
安全審査指針類では、事故事象を想定して基準線量を設けており、その線量は「実効線量の評価値」として「5 mSv」とされています(発生頻度が極めて小さい事故の場合は5 mSv以上)。
一方、ICRPは、緊急時における参考レベルは100-20 mSv、また事故後の復旧期が該当する現存被ばく状況における参考レベルは20-1 mSvを目安として、当該政府が現状に合わせて決めることなどを提示しています。
整合性がとれていないのではないでしょうか?
設計時などでの安全基準の仮定の置き方(=事象を想定した上でのプラントの健全性が保たれているかどうかを判断する基準)と過酷事故が起きてしまった場合に設けられる安全の基準は異なると考えられます。
再処理施設における重大事故の考え方
今の放射線防護の基準は完璧なのでしょうか?
保育施設や幼稚園で幼稚園で建材を配慮するかどうか、子どもの食事でPo-210を配慮するかどうか、ラドン対策を諸外国と同じように制度化するかどうかなどは、日本でも今後、考え方がかわることがあるのかもしれません。
眼の水晶体の線量限度はICRPでは2011に勧告を見直しています。
これら現存被ばく状況に関するICRPの勧告は日本の法令に体系的に取り入れられていますか?
取り入れられておらず課題とされています。国際原子力機関の放射線基本安全指針も体系的には取り入れられていません。
患者の救命のために放射線診療に従事するのは緊急被ばく状況に該当するのでしょうか?
救急医療では日常的な状況であり、計画被ばく状況であると考えられると思いますが、緊急被ばく状況と捉えた議論がなされている例があります。
NCRP publication 168, recommendation 22
NCRP Report No. 168, Radiation Dose Management for Fluoroscopically-Guided Interventional Medical Procedures
「planned special exposure provision」との関係が議論されています。
関連発表
菅原 茂耕.シリーズ:医療現場での放射線管理 第2回 内用療法における安全管理
4.2 急変時の対応
JRC2020 web
[74] [Speaker] Masayoshi Yamada (Dept. of RadiationOncology, Yamagata Univ. Faculty of Medicine)
Prediction of occupational exposure in cases of emergency treatment for thyroid cancer patients being isolated for radioiodine therapy
原子力被災者生活支援チームからのお知らせ
帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム
関係省庁持込資料別紙1
批判的な解説例
小佐古敏荘.福島第1原子力発電所事故後の放射線防護 (現状での放射線防護上の課題)
年間20mSvと時間3.8μSv
途中で説明が変わったとする例
小佐古敏荘.福島第1原子力発電所事故後の放射線防護(現状での放射線防護上の課題)
緊急時被ばく状況も想定している例
ALARAへの言及例
できるだけそれを下げる努力をしなくてはならんことは当然のこと(髙木義明文部科学大臣記者会見録(平成23年4月28日))
それも含めた解説例
大嶋 健志.福島第一原発事故の避難指示解除の基準をめぐる経緯