小動物診療施設でも放射線が有効に使われています
うちのにゃんこが具合悪くなってしまって、動物病院に行ってきました。
X線検査してもらって、画像を見ながら説明してもらった。
やっていることは人間の病院と同じですね。
もっとも、獣医師の中には「 人が治療を受けるために被ばくすることと、動物の治療業務をする過程で獣医師等が被ばくすることは別問題である。」という意見( 「獣医 核医学専門委員会 中間報告書」. (平成15年9月2日))があって、放射線利用の正当性の議論は単純ではないかもしれん。
獣医療分野の放射線従事者が受ける線量
うちのにゃんこは高齢だから麻酔しないでスタッフに保定してもらって撮影していました。
待合室まで反抗する鳴き声が聞こえてきた。
病院だと家族が手伝うこともあるけど、
いわゆる動物看護師の方が保定されていたようです。
放射線防護は大丈夫なのかな?
獣医師会では放射線防護教育にも力を入れておられる。
産業動物X線撮影の場合は、第9回日本放射線安全管理学会で発表(1A1-1川辺睦他.産業動物 X 線撮影における放射線管理)されておる。
四肢の撮影では撮影部位から1 m離れれば一回あたりのスタッフへの(標準人を仮定した)実効線量は200nSv以下であるそうじゃ。
(出典:放射線診療技術研修支援システム -社団法人 日本獣医師会-)
1日10回でも2μSv/dayだから、年間でも0.6 mSv程度に過ぎないですね。
1 m離れることはできるのかな?
言うまでもなく、散乱線の量は、散乱体からの距離に大きく依存する。
獣医療でも入射側の散乱体の近傍に手指があることがあれば、 一次線を外せば線量が減らせるというメッセージは適切ではないじゃろ。
動物を抑えたり、検出器を保持すると手指の線量が増えることはないのかな?
小動物診療施設などでは、体幹部より手指への曝露が大きいのではないであれば、必要な従事者に適切な評価部位で線量モニタリングすることが重要じゃろう。
一次ビームの大きさやどの程度作業を繰り返すかにもよるが、散乱体のそばで保定する動物看護師では、手指の皮膚の基底細胞への線量の制御が重要じゃろ。
この発表は検出器ホルダを従事者の手で抑えることは想定しておらず、散乱体は空気と仔牛の四肢のみを想定(地面などからの散乱も考慮)しているようじゃが、とっかかりの研究であるようなので今後に期待しよう。
産業動物X線撮影の場合、X線装置を従事者が持っているようですが、これは大丈夫ですか?
X線装置からの漏えいが制御されていれば、散乱線の大きさを考えればよく、一次ビームの散乱体入射面の強度、散乱体への入射面積、散乱体からの距離、壁などからの散乱を考えればよいじゃろ。
抄録で「ポータブル撮影装置付近で40µSvとなり、装置を支持する従事者は留意が必要である」とあるのは、最大の推定値で散乱体に近づいた想定であるそうじゃ。
条件次第と言うことだね。
その程度従事するかの頻度も考慮するとよさそうだ。
この計算では子牛を想定し、装置からのリークや入射口付近の物質からの散乱は考慮せず、
撮影した動物からの散乱のみを考慮されたそうじゃ。
散乱線の考慮が十分かどうか疑問も感じるけど、吟味した結果が論文になると思うので期待したいと思います。
そもそもX線装置を手で持ってもよいのかな?
それと散乱体からはどの程度離れる必要があるのかな?
HandheldタイプのX線装置は歯科放射線領域でも課題となっておるようじゃ。
専用の室外の作業では電離則で規定があって、雇われている獣医師による装置の保持や獣医補助者による検出器の保持は 省令違反になるように思われる。
実情とルールに矛盾があるようだったら、当事者である動物看護師の方でどうするのか決めるとよいのではないかな。
そもそも獣医療での従事者の放射線防護の実態はどうなっているのだろう。
従事者が受けた線量は 線量測定サービス会社が集計しておる。
(日本動物高度医療センターの夏堀雅宏先生に講演資料を提供して頂きました)
この会社のサービスを2008年度は4千5百人程度が利用されていて、年間10 mSvを超える人はわずかに一人だけとなっておる。
また線量限度を超えた場合には労働基準監督署に届け出る必要があるが、獣医療分野では事例がないようじゃ。
このデータだと線量は問題なさそうだね。
でもモニタリングは適切なのかな?
そもそも、どの程度のX線装置が使われているのですか?
小動物診療施設は全国で8千程度(pdf file, 115kB)だったのが、1万を超えておる。(pdf file, 324kB)
そのうちの9割近くがX線装置を持っていて、全国の装置の台数は約9千台じゃ。
医療機関と比べると装置1台あたりの使用頻度は低そうだね。
だと思うが、データが見つからない。
撮影で介助することなく透視の頻度も低くX線CT検査での介助もなければ、著しく高く曝露することは考えがたいじゃろ。
働いているのは、どの程度ですか?
小動物診療に従事する獣医師は1万人程度とされておる。
この他、小動物診療施設の8割以上が、1人以上の非獣医師を雇用していると考えられるので、獣医療補助者が2万人弱になりそうじゃが、統計が見当たらない。
18歳未満の学生や従事者の防護は何か特別なルールがあるのですか?
わが国の障害防止法では未成年者の取り扱い禁止とその例外規定があるが、獣医療でのX線診療はその範囲外となる。
国際的にはIAEAのBasic safety standardの改訂版では規定がなされている。
これらの方が適切にモニタリングされているかどうか関係者が情報を発信されるとよいと思うな。
装置の使用頻度が少ないからかもしれないけど、他の分野に比べると放射線診療に従事する労働者のモニタリング割合が低いのではないかなあ。
何か理由があるのですか?
調べた範囲では実態や原因を調査したものが見当たらない。
学術会議の提言にどう答えるかが、この分野でも問われているのかもしれない。
毎日のX線撮影は限られており、過去に被ばくモニタも行ったが、検出限界を超えないので、省略している可能性があるようじゃ。
獣医療補助者の方々が納得されていればよいお話しかもしれないし、合理的な管理が求められるけど、法令に従うべきだし、今の計測は検出限界が小さくなっているので事前の計算評価があっているかどうか測定で確認されてもよいのではないかな。
わが国の小動物診療施設に設置されておるX線CT装置の台数は200台を超えているそうじゃ。
放射線治療や核医学診療も行われておる。
放射線診療の高度化に伴った質のよい放射線管理が必要と言うことですね。
X線診療でよい画像を得る研修だけじゃなくて放射線安全も組み合わせるとよいのじゃないかな。
獣医師会
放射線診療技術支援
稲波修.e ラーニングコンテンツ作成の試みとそれらが目指すもの(pdf file, 64kB)
獣医放射線学教育研究会
医療放射線防護連絡協議会
獣医療法改正時の関連資料
獣医療啓発パンフレット「ペットのためのPET検査」
獣医系大学へのアンケート結果(pdf file, 24kB)
第19 期日本学術会議 核科学総合研究連絡委員会原子力基礎研究専門委員会 獣医学研究連絡委員会報告「獣医療における核医学利用の推進について」(pdf file, 28kB)
北里大学
日本初!動物のPET診断-北里大学獣医学部附属小動物診療センターにおいて「獣医核医学施設」が稼働開始
報道例
TV朝日.スーパーJチャンネル
水曜企画 ~深夜の動物ER~
TBS.獣医ドリトル
第七話
普及啓発
普及啓発
ICRP
Radiological protection of the patient in veterinary medicine and the role of ICRP
ICRP Publication 153 Radiological Protection in Veterinary Practice
よい例と悪い例
外部被ばく線量のモニタリングの実態
動物看護師対象の実態調査
湯川 尚一郎, 藤本 知美, 湯川 元美, 浅川 冨美雪, 嶋田 照雅, 久保 喜平, 動物看護師における放射線防護に関する実態調査, 労働安全衛生研究, 2016, 9 巻, 2 号, p. 73-78.
川辺 睦, 山田 一孝, 花元 克巳, 迫田 晃弘, 片岡 隆浩, 山岡 聖典, 小動物病院におけるX線撮影に伴う放射線診療従事者の実効線量評価, 動物臨床医学, 2010, 19 巻, 4 号, p. 113-117.
X線CT
愛玩動物看護師
藤本 理恵.獣医療の向上を目指した愛玩動物看護師の国家資格化 ― 愛玩動物看護師法の制定 ―
動物用医療機器
大島 智行, 「ヒト用の医療機器を動物病院へ販売する場合の留意点」について, 日本放射線技術学会雑誌, 2017, 73 巻, 7 号, p. 597-599
一般社団法人 日本動物医療振興会
一般社団法人 日本画像医療システム工業会 法規・安全部会 法規委員会 動物医療機器専門委員会.飼育動物診療施設に対するヒト用医療機器の情報提供について<改訂>2017年3月
動物医薬品検査所
動物用医療機器製造販売の承認申請・届出等について
薬事法に基づく動物用医療機器の品質、性能及び安全性確保制度
獣医核医学
伊藤伸彦.—動物医療における高度放射線診療の体制整備(蠡)— 獣医核医学診療の臨床現場における留意点
Suwannasaeng Nattawipa, 柿崎 竹彦, 和田 成一, 夏堀 雅宏, 獣医診療における18F標識フルオロデオキシグルコース(18F-FDG)陽電子断層撮影へ関わる獣医療スタッフと飼い主の外部被ばく線量評価, RADIOISOTOPES, 2022, 71 巻, 2 号, p. 115-126