IAEA
国際的な実態に関する比較研究
そのeditorial
Unacceptable variation in radiation doses from CT scans
線量が高くなりがちな小児のX線CT検査手技での取り組み
法令改正動向
医療法施行規則の改正でX線CT検査で患者が受けた線量を記録・管理することが義務化されました(2019年3月11日公布(2020年4月1日施行))。
適正な放射線利用がなされるように関係者が、様々な取り組みを行っています。
医療機関側は不安な気持ちを持たれる親の信頼に答えられるように放射線診療の質の維持向上に取り組みましょう。
メディア報道を読んでみます。
扱う雑誌の記事
発がんリスクは最悪?
X線CTのことが雑誌に取り上げられていたので考えてみたいと思います。
読んでいきますので、あれっと思うところの解説をお願いします。
まずはタイトルからいかがでしょうか?
他の国と比較して「発がんリスクも最悪に」とあるのは、曝露にリスクが依存すると考えると、わが国では医療で放射線検査を受ける機会が多いために線量も多くなるので、その通りじゃが、
リスクだけじゃなくて、検査のもたらす利益が十分にあるのかという観点でバランスよくタイトルを付けるとよりよいのではないじゃろか。
もっとも、人口あたりの検査件数では米国が増加しており、これまで言われていたような日本の特異性が小さくなり、各国共通の課題であることも、背景としてあると、より深くなると思う。
タイトルは目を引くことが大切だから、その助言だと雑誌社には受入られない気がする。
台数が多くて検査件数が多いというのはどうですか?
X線CTの台数が多いって本当?
「放射線利用に関する放射線利用に関する厚生労働省の取り組み」と同じ情報が述べられており、誤りはないように見受けられる。
もっとも国民、一人あたりの検査件数という観点からは、わが国での増加は頭打ちの傾向にあり、
米国のそれが上回っているとも考えられる。
「放射線利用に関する放射線利用に関する厚生労働省の取り組み」では、UNSCEAR2008ではなくてUNSCEAR2000のデータを使っているので、マルチスライスCT装置の台数を過小評価しているという批判がありますが、
ここまでは記事は正しいということですね。
急性放射線障害のお話しも、このサイトで紹介していて、これも正しそうですね。
「がん3.2%、診断被ばく原因」と報じられたLanetの論文はどうですか?
この論文では、わが国のX線CT検査のことが十分には考慮されていないので、雑誌での記述が必ずしも全面的に正しいとはいえないが、論旨を揺るがせるものではないじゃろ。
米国等との比較例
X線CTで受ける線量は胸部X線検査と比べて大きいの?
X線CT検査で受ける線量が単純X線の100〜500倍とあるのはどうですか?
リスクが線量に依存すると考えると、その表現は間違いではないが、リスクの大きさを比で表すときには、比較対象のリスクがどの程度であるかも伝えるのが親切ではないじゃろか。
小さいリスクを基準にして、比が大きいという表現するのは、フェアさを欠くと思う。
また、X線CT検査の種類によって線量は異なるので、線量の大きな手技であると一般化するのも正しくないように思う。
わが国では肺がん検診に低線量CTを用いようという試みがある。
X線CTは適切に使われているの?
でも、リスクをうまく伝えるのは、相当難しいと思う。
ライターにも頑張ってもらいたい。
次の不適切な使用例はどうですか?
臨床での意志決定の適切さの評価は、事例毎に丁寧にせざるを得ないところじゃ。
検査の適応の吟味は、 MEDICARE IMAGING DEMONSTRATIONでも試みられておる。
どこまで手間をかけるべきかが悩ましいところではあるが、関係学会でも診療ガイドラインが整備されつつあるが、個別の事例へのあてはめは機械的にはできない。
同僚間でチェックし、病院内でチェックし、それを病院外の第三者がチェックするいう仕組みで確認するしかないじゃろ。
X線CTで一時不妊がおこるの?
虫垂炎のために4回の腹部X線CT検査で「精子の量が一時的に低下した可能性が高い」と記事にあるのは、どうですか?
確かに一時的不妊に起こりやすさは性差があって、男性の方が起こしやすいことが知られておる。
しかし、典型的な例では腹部X線CT検査で精巣が受ける平均組織吸収線量は0.7 mGyで、
骨盤X線CT検査でも精巣が受ける平均組織吸収線量は1.7 mGyとするデータがある(Shrimpton ら. 1991)。
『医療被ばくハンドブック』では、精巣の組織吸収線量は腹部X線CT検査で9.6 mGyとある。
『医療被ばく説明マニュアル』では、精巣の組織吸収線量は腹部X線CT検査で2.8 mGy,骨盤X線CT検査で32 mGyとある。
照射の範囲などの条件にもよるし、精巣への線量への評価では、体外からの散乱線の評価がより重要になるが、計算が合わないように見受けられる。
検証できるようにどのデータを用いて議論しているのかわかるようにすると読者が吟味できるのでよいと思う。
いずれにしても、一時不妊を起こすレベルには達していないと考えられる。
ウエッブアンケートでは、精巣への等価線量が70 mSv前後でも一時的な精子の減少が起きると考えてよいかどうか質問がありました。
一時的な精子減少が観察されるのは150 mSvであるというのが一般的な記述であるようですが、それより低い線量はどうなのでしょうか?
放射線曝露で一時的に精子が減少するというのは教育でもよく取り上げているので関心を引きやすいのかもしれません。
・エンドポイントとしての精子の一時的な減少の妥当性
・どの程度のわずかな減少を考慮するか
がポイントになるのではないじゃろか。
個体差もありそうですね。
加齢による造血部位の変化により骨盤部のX線CTで血球減少が観測されることがあるので、状況によるとも考えられる。
サンプルサイズを増やすと70 mSvの曝露でもごくわずかな精子数の減少が検出できるかもしれないが、リスク上どの程度の意味を持つかを吟味すべきじゃろう。
ともあれ、ご意見を下さった方どうもありがとうございました。
X線CTで白内障になるの?
短期間に繰り返すと、影響を及ぼす線量に近づきうるかもしれないということですね。
精巣の放射線感受性は、 放射線の精子や卵子への影響を読まれて下さい。
人々のリスクイメージにメディアが与える影響は、様々な議論があるようですが、
メディアの与える影響は少なくないと思うので、伝える内容の正確さは吟味して欲しいところですね。
頭部X線CT検査での水晶体混濁の心配はどうですか?
5回の検査で557 mGyとあります。
そこまでの有効数字で推計できるかどうかが疑問なところじゃが。
頭部X線CT検査で眼の水晶体が受ける線量は典型的な例で50 mGyとされておる(Shrimpton ら. 1991)。
もっとも、スキャン範囲は照射方法で大きく異なるので、この情報だけでは判断できない。
繰り返す手技ではX線CTでもあっても脱毛が生じることもある。
典型的な例よりも記事で示されている推計値が多いと言うことですね。
では、頭部X線CT検査での白内障のリスクは心配しないでよいと言うことでしょうか?
記事では500〜2,000 mGyを超えると混濁するとあります。
この事例は70代の方で水晶体の後嚢下の細胞異常がどうなるのか、なかなか知見がないところじゃが、
より若い年代では、従来よりも低い線量で周辺部混濁が晩発的に起こりやすいことが知られておるので、
検査のメリットとデメリットの比較でバランスが少し変わることがあるかもしれない。
X線CTは胸部より頭部の方が発がんリスクが大きくなるの?
胸部X線に比べて胸部X線CTでは線量が大きいのでリスクが大きく、さらに、頭部X線CTではより線量が大きい(胸部X線の800〜1,500倍)のでリスクが大きいとされています。
ちなみに記事では線量の単位としてmGy(=Gyの千分の1:ミリグレイ)が用いられています。
胸部X線CTに比べると照射対象の密度が高いので、
ビーム内の線量(空気カーマ)は相対的に高くなる。
歯科Xと同じで強いビームが必要じゃ。
しかし、組織の放射線感受性が異なる。
また、照射する範囲の大きさも異なる。
このため、実効線量は頭部X線CTの方が1/4程度に小さくなる。
なるほど、発がんに関しては、頭部X線CTの方が放射線リスクが1/4程度小さいということですね。
比較するリスクによって線量を適切に選ぶ必要があるけど、少し勉強しないと用語が理解できないかもしれない。
X線CTの中で、子どもは頭部CTの割合が8割と高いとあるのは、どうですか?
小児のX線CTでは頭部が多いの?
従来より小児が受ける放射線検査の中では頭部CTの割合が高いことが知られておる。
その多くは外傷のために検査したと思われる。
X線CTでは小児の方が成人より線量が多いの?
子供では、臓器が小さいので吸収線量が大きいとあるのは、どうですか?
IAEAは小児への不必要な線量の低減に取り組むの書評を読んで欲しい。
臓器が小さいというよりも、診断領域のX線は入射表面付近でよりエネルギーを失いやすいことによる。
もっとも、細かい話なので、雑誌のライターの方はそれほど気にしなくてもよいかもしれない。
また、照射の条件にも依存する。
同じ装置でも小児では体格に応じて照射条件が変更されている。
自動制御装置のお話しはどうでしょうか?
有力なツールではあるが、頭部X線CTでは限界があるところじゃ。
X線CTのリスクの大きさは?
「発がんリスクを高めている」の可能性はあるとしても、
それとその検査がもたらす利益の大きさと比較が、
放射線診療の正当性の検証では重要でと思うけど、
線CTのリスクの大きさはどの程度ですか?
小児の頭部CTでは、5歳の子供と仮定し、
CTDIvol: 34 mGy, DLP 380 mGy cmとすると実効線量は 1.5 mSvとなる。(英国放射線防護庁のNRPB-W67(DOSES FROM COMPUTED TOMOGRAPHY (CT) EXAMINATIONS IN THE UK – 2003 REVIEWの31ページ、Table 13)より)
この推計だと年間の自然放射線が受ける量よりも小さいですね。
リスク係数(=1Svの曝露により障害で放射線誘発発がんにより死亡する確率)を5%/Svとすると、
2 mSvの曝露ではリスクは、1×10-4になる。
放射線誘発発がんによる余命短縮を40年とすると、
この曝露による平均余命短縮は、40年×10-4=4×10-3年=1日と推測される。
もっとも、この推測の不確かさは大きいが、これを大きく上回るリスクがあることは考えがたい。
たいていの検査では、それを上回るメリットがあるということですね。
真のリスクの大きさがどうかというのは疫学研究で調べるしかない。
発がんリスクに関しては、そもそも小さいので、国際的な研究でパワーを確保しないと、疫学研究を行ってもほとんど意義のある知見は得られん。
比較的大きい曝露での手技では、放射線障害の発生や予後を確認しようという試みや国内でもいくつかある。
比較的曝露が大きいものとして放射線治療があり、治療後の二次がんのリスクを調べるコフォート研究が厚労省の資金で実施中で、
この成果は国際的にも貢献することが期待されておる。
米国でのCTの過剰照射の事例に対して、わが国は何もしていないというのはどうですか?
工業会が実態確認に取り組むなど対応し、文書も出しておる。
このように状況の把握や必要な対策の検討を関連部署と連携して取り組まれており、「形跡はない」とあるのは正しくないように見受けられる。
○小児のX線CT検査の実態
・ わが国でのX線CT検査の件数は年間27百万件で小児は7万8千件。
・ 小児のX線CT検査では8割が頭部を対象。外傷が多いと推測。検査件数は頭打ちの傾向。小児X線CTではわが国の特異性が相対的には小さくなる。
○CT検査自体について
・ 平成20年度医療施設調査では、X線CT装置は1万2千台でその半数が多列。高速・高機能機種への置き換えが急速進んでいる。世界のCT装置の1/3は日本にあるとされたがその割合は低下しつつある。
・ 頭部X線CT検査ではビームの強度が相対的に強い。perfusionなどで極めて多数回繰り返すと照射部位に脱毛のリスクがある。しかし、照射範囲が限局されていることもあり、胸腹部CT検査に比べると体全体の線量(=曝露量としての実効線量での示した場合)は少ない。西澤かな枝ら(日医放会誌64:151-158,2004)によれば実効線量として平均2.4 mSv。
・ 自動制御装置を用いた場合の小児のX線CT検査の線量は最新の状況を調べる必要がある。
・ X線CT装置が多い理由は、患者や医師が画像診断に頼る傾向にあるからとされるが、これは世界的な傾向(適応を吟味するという動きもあるが)。装置の設置に関しては医療機関への経済的なインセンテイブはそれほど大きくない(X線CT装置の導入で大きな経済的な利益が得られるという構造ではなかったので)が、制限となる要件がなかったことが要因の一つかもしれない。
○CT検査で発がんするのかどうかについて
・ X線CT検査で5 mSvの線量とし、リスク係数を5%/Svとすると、生涯での過剰がん死亡リスクは0.025%となる。放射線誘発がんの場合の寿命短縮を40年とすると、平均寿命短縮は40年×0.025%=0.01年=4日程度となる。リスクがこの10倍であるとしても疫学研究でこの差を検出するには、曝露群と対照群がそれぞれ4百万人程度必要になる。 このために、このような低線量でリスクが本当にあるかどうかはよく分からない。
大規模な研究例
小児や青年期にX線CT検査を受けた68万人でのがんのリスク:オーストラリアでの1千百万人を対象にしたデータ・リンケージ研究
○世界の動き
・IAEAでは、 New Era in CT scanningというスローガンを提唱している。わが国でもWHOやIAEAと連携し、医療安全に取り組んでいる。学会のネットワークもできており、世界をリードした取り組みが内外から期待されている。
労災補償の考え方
Q.年間5 mSvの被ばくで労災が認められると聞きましたが、それだけの線量でも受けると危険なのですか?
A.労災補償は、
・業務上受けた放射線が原因で作業者に健康上の障害が発生した場合に、
・業務上負傷あるいは業務上疾病として労働者災害補償保険法に基づいて補償する
ものとされています。
労災補償は、
・無過失責任体系であり、
・事業者に過失があったかどうかは問われず、
・業務遂行性(=業務に関連した被ばくであること)と
・業務起因性(=放射線と疾病との間に相当因果関係がある、すなわち、業務上受けた放射線が原因としてかなり関係している)が認められれば、
・業務上の疾病として認定される。
という仕組みです。
このため、年間5 mSvの被ばくで発がんが発症すると言うことを必ずしも意味するものではないですし、職業被ばくでの線量限度の引き下げを求めているものでもありません。
Q.放射線業務従事者の労災認定では、職場検診で受けた検査の線量も加味されるのですか?
A.白血病を起こす誘因としては、電離放射線被ばくが唯一のものではない。また、白血病の発生が電離放射線被ばくと関連があると考えられる症例においても、業務による電離放射線被ばく線量に医療上の電離放射線被ばく線量等の業務以外の被ばく線量が加わって発生することが多い。このような場合には、業務による電離放射線被ばく線量が前記(1)の式で示される値に比較的近いものでこれを下回るときは、医療上の被ばく線量を加えて前記(1)で示される値に該当するか否かを考慮する必要がある。この場合、労働安全衛生法等の法令により事業者に対し義務づけられた労働者の健康診断を実施したために被ばくしたエックス線のような電離放射線の被ばく線量は、業務起因性の判断を行うに際しては業務上の被ばく線量として取り扱う。
資料
電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準について(pdf file, 264kB)
放射線診療従事者での皮膚がんの労災認定事例の情報
コロンボ(別名:古畑)スタイル)教育講演
村松 禎久.胸部CT画像における被ばくと画質保証(pdf file, 112kB)
GEヘルスケア社(本社:米国)の協力によりリジット社が開発したCT画像のDICOMヘッダからの被ばく線量(照射条件を考慮した標準人を仮定した曝露量としての実効線量や主な臓器の平均吸収線量を推計)を計算するソフトウェアの紹介記事
テクセル工房(google sites版).CTによる被曝について
茂呂田 孝一, 盛武 敬, 孫 略, 石原 隆宏, 熊 奈津代, 村田 聡美, 山田 貴大, 岡﨑 龍史.患者被ばく線量低減に向けたDICOM RDSR(病院内医療用画像規格線量レポート)情報の収集
社団法人日本診療放射線技師会・社団法人日本放射線技術学会による見解
昨今の雑誌の医療被ばくに関する記事等に対する見解(pdf file, 240kB)
社団法人日本診療放射線技師会(日本放射線公衆安全学会)による意見
「文芸春秋」2010年11月号(144-152頁)に掲載された近藤誠『衝撃レポート:CT検査でがんになる』の関連記事
厚生労働省
医療放射線の適正管理に関する検討会
医療で用いられる放射線のリスクのレビュー例
星野 智祥.CTを中心とする医療放射線被ばくの発がんリスクについて
国際比較例
小児CT検査頻度数の推定と国際比較日本は米国に次いでCT検査頻度が高いことが判明しました。
日本医学放射線学会
画像診断管理加算3及び頭部MRI撮影加算の届出に関して
2022-2023年度画像診断管理認証施設一覧
リスクを知りたい?
Loss of life expectancyとは何ですか?
最近の動向への警笛例
Madan M Rehani. Old enemy, new threat: you can’t solve today’s problems with yesterday’s solution
放射線生物学の研究
No increase in translocated chromosomal aberrations, an indicator of ionizing radiation exposure, in childhood thyroid cancer in Fukushima Prefecture.福島県の小児甲状腺がん患者に原発事故による転座型染色体異常の増加はない
転座型染色体異常の増加に関して医療での曝露との関連は示唆されたものの、事故による放射線曝露による転座型染色体異常の増加が検出できなかったとしています。