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原子力発電所事故後の体表面スクリーニング
東京電力福島第一原子力発電所事故後の見直し中の議論
原子力安全委員会 原子力施設等防災専門部会被ばく医療分科会第31回会合
医分第31-4号 スクリーニングに関する提言(案)(PDF:415 KB)
除染の基準の考え方
管理区域から持出時の表面汚染限度
管理区域内の物の表面の放射性同位体による汚染密度限度は、α線放出核種に対し4Bq/cm2、α線を放出しない核種に対し40 Bq/cm2とされており、持出の基準はその1/10とされており、電離則での作業者の管理区域での退出でも、この基準が用いられています。
表面汚染の再浮遊による吸入曝露での内部被ばくの制御
この限度は、表面を汚染した放射性同位体が空気中に飛散し、その呼吸摂取による内部被ばくが公衆の線量限度と等しくなる量として誘導されています。ここでの汚染は広い面積が想定され、再浮遊係数は安全側に設定されています。広い面積の汚染を手に付けてそれを経口摂取するというシナリオは想定されていません。
浜田達二先生によるわかりやすい解説
表面汚染ガイドラインに関する論点と検討の概要
汚染密度と計数率の関係の説明例
佐々木道也, 木村建貴. 表面汚染の基準導出におけるシナリオとパラメータの調査. 保健物理. 2024;58(4):209–19.
表面汚染の再浮遊による吸入曝露での内部被ばくの制御
平成23年8月29日 原子力安全委員会 避難区域(警戒区域)から退出する際の除染の適切な実施について
避難区域への一時立ち入り時のスクリーニング基準
安定ヨウ素剤の投与基準
甲状腺の等価線量を表面汚染密度から推測することを目的にしています。
その他
曝露シナリオと回避線量からの誘導が考えられます。
安定ヨウ素剤による甲状腺への線量低減策を講じるかどうかの判断基準が用いられています
緊急被ばく医療のスクリーニングレベル
I-131を想定し、I-131で汚染した空気を小児が吸い込んだ場合に、その小児の甲状腺の線量が100 mSvに達する空気中濃度に対応した沈着量として誘導されています。
通常のGMサーベイメータでは13kcpm(=13×103count per minute)に相当します。
この計数率は通常のBGの200倍程度にあたります。
I-131の吸入摂取を防止する措置が講じられていた場合には、汚染密度(=単位面積あたりの放射能)と甲状腺の線量の関係は異なります。
体表面測定によるスクリーニングを体外計測と誤解されていると思われる例
1 万 3,000 cpm が全て内部被ばくのヨウ素によるものとすると、
90 この仮定は安全側に立っており、実際の汚染の多くは着衣等の外部にも生じる。
257ページの記述
ここでの表現は、「1 万 3,000 cpm が全て(内部被ばくを引き起こす)放射性ヨウ素によるものとすると」とすべきであると考えられます。
なお、この表現は、3月14日4時30分にNSCがERCに対してなされた「1万3,000 cpm が全て内部被ばくのヨウ素によるものとすると、安定ヨウ素剤投与の基準値となる等価線量100 mSv に相当する」としたものを利用したとも考えられますが、この助言は体外計測による内部被ばく線量の推計を扱ったものではありません。
計数率が高くてもそれが直ちに線量が高いことは意味しません(=線量は吸入した放射性物質の量に依存します)
スクリーニング基準は、小児での安定ヨウ素剤の予防的投与の基準として考えられており、この基準を超えることが体への影響が懸念される線量を受けたことを意味しません。
吸入による回避線量が高いことが想定される場合には、内部汚染の防止策を講じることが重要です。
福島県の指針
避難所以外でサーベイを受ける場合
国の事務連絡
線量を左右する因子
空気がどの程度I-131に汚染しているかどうかだけではなく、どの程度それを吸い込むかで線量の大きさが決まります。
除染の基準を超える汚染であったとしても、ただちにそれが重大なリスクであることを意味しません(=リスクは線量の大きさに依存します)。
厚生労働省の通知に沿った測定方法
体表面汚染検査から甲状腺線量の推計
不確かさが大きい方法です
体表面汚染の計数率から体表面汚染の換算
体表面の放射性物質を計測する目的
内部被ばく
外部被ばく
その他
表面汚染密度から計数率の換算
核種、汚染面積、検出器のサイズに依存
口径5cmφの標準的なGMサーベイ
40 Bq/cm2が13kcpmに相当
FAQ
Q.日立アロカメディカル株式会社のGMサーベイメータであるTGS-136のウラン線源に対する計数効率は、カタログ値で 4.2×10-2 [Bq/cpm]とあります。このサーベイメータの窓面積 20 cm2であり、I-131とのベータ線のエネルギーの違いなどによる換算係数の補正値 4.3 であることから、I-131による体表面汚染密度が40 [Bq/cm2]であるときの計数率は、4,430 [cpm]となり、1.3kcpmと異なるのではないですか?
A.スクリーニング基準の計数率は、甲状腺の等価線量が100 mSvに達するであろう状況であったかどうかから誘導されており、空間中のI-131の降下速度の不確かさを考慮し、誘導される計数率の幾何平均として求められたものです。
40 Bq/cm2の意味
表面汚染は空気中の放射性物質が降下したもの
表面汚染密度と空気中濃度を関連づけ
→ヨウ素の沈降速度: 0.1 cm/s
→滞在時間:24時間
→沈降高さ:8,640 cm
→空気中濃度:4 mBq/cm3
成人の一日の呼吸量:22.2 m3/d
成人の吸入摂取量:8.9×104 Bq/d
成人の吸入による実効線量換算係数:1.5×10-5 mSv/Bq
成人の吸入による実効線量:1.3 mSv
乳児の一日の呼吸量:4.0 m3/d
乳児の吸入による摂取量:8.9×104 Bq/d
乳児の吸入による実効線量換算係数:1.3×10-4 mSv/Bq
乳児の吸入による甲状腺等価線量換算係数:2.5×10-3 mSv/Bq
乳児の吸入による実効線量:0.5 mSv
乳児の吸入による甲状腺線量:10 mSv
摂取した放射性物質の量から実効線量や等価線量への換算係数
小児甲状腺線量100 mSvのリスク
甲状腺への線量が1Gyで致死性甲状腺がんの過剰発症は3人/1万人
→甲状腺がんそのものの発症はその10倍
1×10-5のオーダーのリスク
→小児(0~14歳)での甲状腺がんによる死亡率は人口100万人に対して3人程度
→安定ヨウ素剤の予防投与は正当化しうるが著しく高いリスクとも言えない(比較の基準にもよりますが)
汚染のインパクト
内部被ばく
体表面汚染を内部に摂取した場合の線量推計
汚染密度 4E+01 Bq/cm2
→体表面積 1.6E+04 cm2
→汚染量 6.4E+05 Bq
I-131
実効線量係数(mSv/Bq)
→吸入摂取 1.50E-05
→経口摂取 2.20E-05
線量(mSv)
→吸入摂取 10 mSv
→経口摂取 14 mSv
I-131による1.3kcpm程度の汚染が全体的にあり、その汚染を全部摂取してもリスクは限定的
I-134
汚染量 3.2E+05 Bqと仮定
実効線量係数(mSv/Bq)
→吸入摂取 2.0E-05
→経口摂取 1.9E-05
線量(mSv)
→吸入摂取 6 mSv
→経口摂取 6 mSv
I-137
汚染量 3.2E+05 Bqと仮定
実効線量係数(mSv/Bq)
→吸入摂取 3.9E-05
→経口摂取 1.3E-05
線量(mSv)
→吸入摂取 13 mSv
→経口摂取 4 mSv
放射性セシウム
→吸入摂取 19 mSv
→経口摂取 10 mSv
放射性セシウムによる1.3kcpm程度の汚染が全体的にあり、その汚染を全部摂取してもリスクは限定的ではあるが、除染措置は十分に正当化されうるレベル
皮膚への線量
皮膚についた場合の皮膚への線量率はI-131では、1 Bq/cm2あたり1.3μSv/h程度
→ICRU Report 56
→40 Bq/cm2の汚染で50 μSv/h程度
I-131による1.3kcpm程度の汚染が皮膚にあっても長時間放置しなければリスクは限定的
皮膚についた場合の皮膚への線量率はCs-134では、1 Bq/cm2あたり1.0 μSv/h程度
→ICRU Report 56
→20 Bq/cm2の汚染で20 μSv/h程度
皮膚についた場合の皮膚への線量率はCs-137では、1 Bq/cm2あたり1.4μSv/h程度
→ICRU Report 56
→20 Bq/cm2の汚染で28μSv/h程度
放射性セシウムによる1.3kcpm程度の汚染が皮膚にあっても長時間放置しなければリスクは限定的
降下物による皮膚への汚染
降雨時とそれ以外では降下物の量は10倍程度異なると考えられます。
埼玉県における降下物(ちり、雨水等)の検査結果
例えば降雨があった2011年4月12日のCs-137の降下量は107 [Bq/m2/day]であり、降雨がなかった翌日(2011年4月13日)のCs-137の降下量は6 [Bq/m2/day]となっています。
一日間の汚染が皮膚にたまったとすると、降雨時は100 [mBq/cm2]となり、それ以外の日では、0.6 [mBq/cm2]となります。
なお、降下量は条件によって変動します。埼玉県での観測値で最も大きかったのは、2011年3月22日のI-131の22,159 [Bq/m2/day](=2.2 [Bq/cm2])でした。
2011年3月22日の都内の地表面でのγ線線量率(1cm線量当量率)の測定風景
除染の意味合い
100kCPMが除染基準です
例はほとんどない
100kCPMの汚染は300 Bq/cm2に相当
1.5 m2の汚染範囲であるとすると5 MBqの汚染に相当
線量推計メモ
空間線量率から空気中濃度
I-131
0.1μSv/hの時に30 Bq/m3
Cs-137
0.1μSv/hの時に20 Bq/m3
検証されたデータではありません(visual monte carloによる計算)。
空気の吸入による内部被ばくと経口摂取による内部被ばくはどちらが大きいですか?
状況によります。
また、どちらの寄与が大きいかだけに着目することの意義は限定的です。
計算例(仮想的な例です)
○吸入摂取
・一日の平均空気中濃度:50 Bq/m3
・一日に吸う空気量20 m3/d
→一日の摂取量:1kBq/d
○経口摂取
・飲料水濃度:1kBq/l
・一日に飲む飲水量:2l
→一日の摂取量:2kBq/d
【参考】
東京のピーク濃度:250 Bq/m3
チョルノービリ(チェルノブィリ)原子力発電所事故時の我が国での空気中濃度:1 Bq/m3程度
I-131でのごくごく簡単な計算例
空気中濃度 30 Bq/m3
空気の密度 0.00129 g/cm3
→1.29 kg/m3
β線
放出比 0.817
最大エネルギー 0.606 MeV
eV→J 1.60E-19 J/eV
一崩壊あたり 9.70E-14 J
一時間崩壊数 108,000 /m3
一時間放出エネルギー 1.1E-08 J/m3
吸収線量率 8.1E-09 Gy/h (最大エネルギーを使っているので過大評価)
γ線
放出比 0.817
エネルギー 0.364 MeV(他のエネルギーもあります)
一時間放出エネルギー 6.3E-09 J/m3
空気の密度を0.00129 g/cm3とすると、
1 m3の空気の質量は、1290 g/m3となります。
無限に広い空間を仮定し、そこに30 Bq/m3の空気が詰まっているとすると、
単位容積あたりから放出される放射線エネルギーはこの空間で吸収されると考えられます。
吸収線量は単位質量当たりに吸収された電離エネルギーなので(Gy=J/kg)、
6.3E-09 J/m3÷1.29 kg/m3を計算すると、
空気吸収線量率は4.9E-09 Gy/hとなります(他のエネルギーを使っていないので過小評価)。
合計すると0.1 約0.01μSv/hとなります。
ただし、γ線の考慮が十分ではないので、この方法では過小評価になります。
この計算に関する疑問にお答えして
吸収線量の電離エネルギーの範囲はGy=J/kgとなっていますが、このkgは空気1kgでしょうか。空気線量率のGy/hから線量当量率のSv/hに換算しているのでしょうか。シーベルトは体重1kg当たりの密度であり人体への影響を表す単位ではないでしょうか。
ここでの空気吸収線量の計算では、空気1kgあたりに与えられた電離エネルギーを求めています。
その結果得られた空気吸収線量率を人体の平均吸収線量率とみなしています。
シーベルトは、線量当量、等価線量、実効線量で用いられる単位です。
ラフに考えると空気吸収線量は人体の平均吸収線量になります。
(空気と水を比べると容積当たりの吸収線量は空気の方が小さいですが、質量あたりにするとほぼ等しくなる。放射線の輸送コードを用いた計算で確認できる。簡易的には吸収体別に半価層を用いて計算しても確認できます)
さらにラフに考えると人体の平均吸収線量は実効線量と同じと見なせます(放射線場の特性やエネルギーを与える容積の大きさによって、ある放射線場での水吸収線量と空気吸収線量の関係は異なるので、厳密にはここに吟味する必要があります)。
より正確に見積もるには、全ての放射線成分を考慮し、空間にヒトと等価の電子密度分布を持つ物体を仮想的に配置し、計算することが考えられます。
類似の計算例
体に付着した放射性物質からの線量
頭部に500 BqのCs-137が付着した場合の周囲の線量率はどうなりますか?
髪の毛に放射性セシウムが付着した場合の線量率の評価例です。
中心が地上から100 cmにある半径10 cmの球の上半分の表面にCs-137が付着した場合の放射線の飛跡(2秒間の観察でβ線は考慮していない)
球の周辺の地表から高さ1 mでの線量率の分布
皮膚の線量が心配?(線源からの距離が近い、β線の影響を受ける…)
皮膚に付いた汚染から皮膚が受ける線量
このような服は着ない方がよいの?
服を買い換え場合の線量低減効果から、その対策の効率は計算できます。
タオルや衣類・衣服に付着した放射性物質は洗濯して落ちるの?
衣類の洗濯効果が保健物理 Vol. 47(2012) No. 3に発表されています(電子ジャーナルにはまだ未掲載)。
研究例
使用したマスクを使って吸入した放射性物質の量を調べた調査例
The reductive effect of an anti-pollinosis mask against internal exposure from radioactive materials dispersed from the Fukushima Daiichi Nuclear Disaster.
衣服に付いたCs-137からの放射線量
γ線のみの考慮では、成人の胸部の汚染では1 Bqあたり1.5pSv/hなので1kBqあたり1.6nSv/h程度になります。
1 Bqあたり最大1.2 MeVの運動エネルギーを持つ電子が一つと0.66 MeVの光子が0.85個放出されるので、そのエネルギーを全て体で吸収した場合が最大になります。
β線の寄与による局所の(=皮膚基底細胞)などの吸収線量は、放射性核種の衣服上での分布に影響を受けます。
体内に存在するK-40の量から、各臓器に与えられる単位時間あたりのエネルギーを計算し、そこから線量を求めたものは、預託実効線量と言えないと考えてよいでしょうか?
汚染された衣服による被ばくについて立体角を考慮した場合の計算法が私はよく追えません。
線量率定数は点線源から単位時間に放出されたa個の放射線による線源からの距離1 mの空間でのフルエンス率に比例します(この関係を使うとフルエンス率と線量率の関係が得られます)。
衣服にある線源から単位時間に放出されたa個の放射線のうち、半分は体に入ると考えられます。
体でのフルエンス率は、a/2を体の断面積に割ったものになります。
これにフルエンス率と線量換算係数の比例定数をかけると衣服にある線源による体への線量率が簡易的に求められることになります。
被災地の除染に対する専門機関による支援
日本原子力研究開発機構
福島県の放射線量低減対策モデル事業への支援
除染作業による廃棄物の処理が課題になっています。
学校等における放射線量低減対策モデル事業への日本原子力研究開発機構の協力について(お知らせ)