新しい部署での仕事はどう?
少しは慣れたかな。
赤ちゃん相手に頑張っています。
何で異動になったの?
NICUがセンター化されて稼働割合があがったみたい。
スタッフの負担が増えたので、集められたのよ。
スタッフ全体で支えておるのだな。
放射線部の技師さんも毎日、ポータブルエックス線撮影に来るのよ。
保育器の赤ちゃんを検査の度に放射線部まで連れて行くのは大変そうだもんね。
検査の時には、鉛の防護エプロンをしているのよ。
NICUのはデザインもなかなかよいと思うけど、ちょっと心配なことがあるの。
何が心配なの?
鉛の防護エプロンは胸とお腹しかカバーしていないのよ。
でも、検査の時には赤ちゃんを手で抑えているの。
だから、手に放射線があたっていないかちょっと心配なのよ。
赤ちゃんのX線写真にお姉ちゃんの手が写っていなかったら、放射線にもあたっていないということなんじゃないの?
ちと、それは甘いかなあ。
最近は画像はデジタルなので、保存する画像はトリミングされておる。端は切り取られるので、保存された画像だけで判断するのはよろしくない。
指の線量は簡単にモニターできるので、付きそう回数が多ければ、線量計を付けるのもよいのではないかな。
放射線モニタリングって、管理区域の中だけで十分なんじゃなかったっけ。
でも回数が多いのよ。
大分県立病院のNICUに1994年1月から1999年9月に入院した2,408 症例を対象にした調査は、ELBWI-a児では入院中にNICU内で平均して約26回のX線検査を受けていたことが明らかになっておる(*)。
エックス線診療室以外でもNICUなどでは、相当量の検査が行われているのではないかな?
エックス線室以外でも放射線を出してよいんだ。
病室でポータブル撮影することもあるわ。
でも件数は一日だと病棟全体でも百件程度と少ないみたい。
厚生労働省からは、在宅でのX線検査も大丈夫って通知があるって院内勉強会で習ったわ。
線量はどの程度になるのかな?
新生児胸部X線での入射表面線量は0.2 mGy程度だろう。
直接線が手指にあたったとすると、
1日5件で1 mGy/日、
1週間で5 mGy/週、
3月間で65 mGy
年間だと260 mGyか。
手指の年間の線量限度は500 mSvだから、その半分程度にとどまるようだな。
mGyとmSvで単位が違うみたいだけど。
皮膚の線量限度は等価線量で与えられておるから、単位はmSvになる。
等価線量と吸収線量はどう違うの?
等価線量は臓器全体の平均吸収線量に放射線加重係数をかけたものだよ。
エックス線だと放射線加重係数は1だよね。
だとすると、局所の線量と平均の線量の違いか。
安全側に評価していると言うことになるが、放射線部の人以外は気にしなくてよいと思う。
必要な画像情報を得ることが前提だが、必要最小限の線量でよい画像を得ることが現場で競われておるようだな。
指針作りはどうしたらよいのかな?
同じような性格の医療機関でも病床あたりのポータブル検査数は大きく異なり、
ポータブル検査の適用そのものが医療機関で大きく異なっている実状にあるようだ。
病院のつくりが効いているのかなあ。
人間関係で決まっているという話もあるみたい。
まずは、ポータブル検査はどのような場合に行って、
それぞれのスタッフがどのような役割を担うかを率直に話し合って決めてはどうだろうか。
それすら決まらないのであれば、そこから先の話をきちんとするのは難しいんじゃないかな。
どうでもよいリスクにこだわっても仕方がないと思うけど、その観点ではどうなの?
年間、10 μSv程度だと、例えちょっとの工夫でさらに線量が減るとしても、そのような対策を考えることそのものの意義がとっても乏しい。
病棟勤務しているスタッフに対して、月1回のポータブル検査だと2 mの距離で年間の線量が10 μSvに届かないことを示して、それ以上の対策は特に積極的に推奨しない(必要がない)ということを放射線部から示してはどうかな。
その提案にどう答えるかで放射線部がどの程度信頼されているかが計測できそうね。
今度の看護学会のネタにしようかしら。
(*)Ono K, Akahane K, Aota T, Hada M, Takano Y, Kai M, Kusama T.Neonatal doses from X ray examinations by birth weight in a neonatal intensive care unit.Radiat Prot Dosimetry. 2003;103(2):155-62.
Q.成人した自閉症の子を持つ精神科医です。
小児科にローテイト中の研修医の時に、妊娠数週時に病院で当直していて、保育器の中のbabyの症状が悪化したので、X線検査が必要になり、上司の医師に命令され、その時少し症状を感じていた自分の体の事を言い出せないまま、防具を掛けてその医師と二人がかりでX線を撮りました。
1,000gの未熟児の胸の写真を撮る線量なので小さいに違いないものの、
防具をしているとはいえ、こんな近くで放射線を浴びるなんて、大変な事だったのではないかと、妊娠が分かって冷や汗かきました。
その1週間後にも同じようなエピソードがありました。
ウィークデーの日勤帯でしたので、診療放射線技師が勤務しており、
X線の検査のオーダーすると、昼休みの時間帯に診療放射線技師がNICUまで来て、レントゲンを撮ってくれるのですが、業務が多忙だったので、
技師さんが来ているのに気がつかず、無防具で機械から5mくらいまで近づいてしまって、「ピンポーン」(レントゲンを撮ったよ、という機械の音)に気づき、しまったと思いました。
技師さんも、困るナーという感じで顔をしかめていました。
この撮影条件も、一回目の被ばくの時と同じ条件なので、線量は小さいと思うのですが、
その後、子どもに何かがあると、つい妊娠中の事と結びつけて自分を責めてしまいます。
教えていただきたいのは、上記のような状態で受けた線量が5週や7−8週の胎児に与えるリスクは、どのくらいかという事です。
X線が自閉症のリスクになるかは定説はないかと思いますが、浴びた線量の危険度をよく知らぬまま日々の生活に追われ今日まで来てしまいました。
何となく、このことを分からずじまいにしておかないで、専門家の意見を聞いて、正しい認識を持ちたいです。
ざっくりしたおおまかな計算でも結構ですから、およその事でも良いので、お教え下さると助かります。
A.
妊娠中や新生児の被ばくは、比較的お問い合わせが多いこともあり、放射線の量のデータはよくとられています。
NICUでのBabygram radiographで使われる放射線の量は、babyに入射する位置で多めに見積もっても2 mGy程度(空気の吸収線量ですが、体での吸収線量と見なしても大きな違いはありません)と少ないとされています(通常はもっと少なく、この1/10程度)。
ELBWIだと通常は、0.15 mGy程度で多くてもその5倍程度とごくごくわずかです。
一方、babyから散乱して介助者に放射線の量は、比較的エネルギーが小さいエックス線が用いられることもあって少なく、5 m程度離れると、上の線量の 2E-05に過ぎません。
従って、最大の見積もりでも、20nGyに過ぎません。
普段の生活で受ける外部被ばくの線量率は、今、私の手元の線量計で60nGy/h程度なので、20分間程度の線量分になります。
これは、労働者を保護するための線量計では検知できないレベルです(このレベルでも放射線管理用の測定器では検出でき、医療機関では、定期的に確認され放射線管理されています)。
また、介助時の線量は、腹部が防護衣をされているとのことですので、過大に見積もっても2μGyに過ぎません(防護衣がなくても、その10倍程度なので、よほど繰り返して介助業務に従事しない限りは大きな線量にはなりません)。
曝露する量としては極めて小さいので、各事例でのリスクの評価には至らないレベルです。
Q.第二子の妊娠を考えている看護師です。
RI検査をした患者さんの病棟での介助業務に夫が心配しています。
上司が心配ないと言っていると伝えていますが、納得していないようです。
どうすればよいですか?
A.その業務でどの程度の放射線を受けるかは放射線部がきちんと評価しています。
患者さんに投与する放射性物質の量は厳格に制御されており、その周囲に滞在することによる線量もよくわかっています。
管理区域から退出する時の患者さんの周囲の線量率は十分に低くなっているので、放射線安全教育での注意を守ればリスクは十分に小さいです。
データは放射線安全の研修の資料にあるはずなので、それを夫に見せるのはいかがでしょうか。
院内のルールはみんなで納得して決めるとよいでしょう。
簡単な計算例
実効線量率定数は、1 MBqあたりの線源から距離1 mでの実効線量率[µSv/h]を示す。
核種 | 実効線量率定数 |
---|---|
99mTc | 0.0181 |
201Tl | 0.0142 |
出典はアイソトープ手帳
例えば心筋シンチグラフィで200 MBqの201Tlが患者さんに投与されているとすると、
患者さんから1 mの距離での線量率は、
0.0142[µSv/h m2 MBq-1]×200[MBq]÷1[m2 ]=2.8[µSv/h]
となる。
この線量率は、地上での自然放射線レベルの40倍程度で、飛行中の航空機内程度。
1時間の滞在で3[μSv]程度となる。
年間で自然に受ける放射線量は2.4[mSv]程度なので、線量の増加は1%程度。
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画像の例
Galvanised by a respiratory distress diagnosis
NICUでの撮像の工夫例
谷 正司・田辺智晴・阿部修司・三原一博,FCRを用いたNICU病室撮影における 胸部経過観察と撮影条件の最適化
アクリルフード(天板)を想定
庄司 友和, 加藤 秀起, 勝木 葉子, ガラハー 美樹.新生児特定集中治療室回診撮影における被ばく線量解析ソフトPIETAII の開発.日本放射線技術学会雑誌, 2015, 71 巻, 3 号, p. 194-200
クベース天井部のアクリル厚6mmを付加することで被ばく線量計算プログラム(SDEC)にクベース天井部の影響を加味したポータブル撮影時の被ばく状況を把握できるソフトウェアPatient Information of Exposure dose Total Analysis in NICU room(PIETAII)を開発
保育器内での新生児のレントゲン撮影時における体位固定方法の検討
保育器(クベース)の利用で必要な線量が増加しているとしている例
粟元 伸一, 大賀 正浩, 小野 修平, 四辻 瑶平, 加藤 豊幸, 梅津 芳幸.低出生体重児の移動型X線撮影時における保育器の影響について.日本診療放射線技師会誌(2187-2538)63巻7号 Page742-746(2016.07)
保育器のX線吸収があるため画質が低下する。
保育器を使用した場合のIQFを保育器を使用しない場合と同等にするためには、管電圧を4~6kV上げる必要がある。
空気カーマは、保育器を使用していない場合と比較して4~9μGy増大した。
新生児のX線撮影時には必ず患児固定のために介助者が必要となるため,X線撮影時には介助者(医師,看護師),撮影者が保育器の側に位置していることから新生児の移動型X線撮影時の散乱線分布を把握し情報共有が試みられています。
CT・MRI検査兼用未熟児・新生児用クベースの工夫 新型クベースの試作
一般撮影室での撮影介助時の空間線量
腹部介助230回 (1.2 回/日、200日)で20 mSvと推計している例があります(ポータブル撮影(照射野中心から50 cm) 11 μSv(腹部))。
距離が近い介助では、より線量が高くなり得ます。
放射線看護学会
放射線診療(業務)従事者の指定に関するガイドライン-看護職者-
段階的なアプローチが取られています
労働安全衛生マネジメントシステムを機能させることが重要ではないか
区分などは国際機関の文書も参考にするとよいのではないか
繰り返し曝露する場合には管理区域外の曝露も考慮すべきではないか
表3の予測線量はその種類を明示すべきではないか
スペシャルニーズのある診療だと一回の介助でモニタリングするH(0.07)は1 mSvを超えうる
不均等被ばく場を考えたアプローチが必要となるでしょう。