用語 か/E

環境経済学
Environmental economics

ある対策が効率的かどうかを判定するために費用便益分析などを用いる学問。
ただし、公共的な意思決定では、公平性の側面が極めて重要であり、効率性だけでは判断できません。
効率性は公平性と対立することがあり、両者を統一的に評価する公共政策評価論は確立していないので、費用便益分析は、公平性の問題が大きい場合には、適用できないという限界があります。
そもそも公平な補償が成り立っていないとここでの議論の大本となる前提が崩れます。

対策の優先度決定に役立つか?

   
母親 1 mSv被曝を減らすことの獲得余命はどの程度ですか?
エミ 初年に1 mSv被曝を減らすなら、それによる今後30年間の獲得余命は、全年齢平均で7.4×10-3年。4人家族なら、0.03年です
母親 そのことによる放射線リスク低減の便益はどの程度ですか?
アオイ 1年余命延長の便益が2000万円なら、60万円の便益です
母親 年間10 mSv減らす効果があれば、600万円かけても損しないとなりそうですね
エミ 費用対効果が高い対策って何だろう?
母親 それよりも元に戻せという話だと思うけど…

個人の意思決定に役立つか?

   
母親 食品の基準値を超えるきのこを食べるかどうかというとんでもないテーマが扱われています…
エミ 1kg あたり500Bq の放射性セシウムを含む可能性のある野生のきのこを、10kg 食べると、5000Bq の放射性セシウムを摂取する可能性があります。当然、避けるべきリスクだと思う
母親 5kBqを摂取すると0.075 mSvもの被曝を受けることになります(134 と137 が1:2 としています)
アオイ 1 mSv の被曝が平均的年齢のがん死をもたらす確率を8×105 増加させ、平均余命を1×10 3年、失わせるとすると、0.075 mSv の被曝は、40 分間もの余命を失わせることになるそうです
エミ その一方で、1 年の余命延長に2000 万円の便益があるとすれば、このきのこを食べることで1500 円の便益を失うそうです
母親 生活に伝統文化が大切というのは聞くのが辛くなります…
エミ 50 歳以上なら、このきのこを食べることで失う便益は500 円となりそうです。平均的個人なら、きのこ1kgで50 円以上の便益があれば、食べた方が得だそうです
アオイ その一方で、リスクを避けることにコストを払うリスク回避の観点から軽自動車を選ばず、1 年の余命延長に4000 万円以上の便益をもつ50 歳以上の人だと、きのこの便益が1kg あたり100 円以上なければ、食べた方が得にはならないそうです
母親 どう行動するかは個人がその個人が得するかどうかというよりも、その行動が周囲の方にどう影響を与えるかの要因の方が重要だと思う…
エミ このリスクを小さいと感じる方もおられると思うけど、放射線のリスクは比較的大きいと改めて感じた方もおられるのではないでしょうか

あのときの行動はおおむね正しかったのか?

   
母親 安定ヨウ素剤を服用できなかったことのわだかまりがまだ残っています…。服用できなかったことの不利益を定量的に示せるのでしょうか?
エミ 甲状腺がんのリスクを回避できなかったのではないかという観点だと計算できそうです
母親 「事故初期のヨウ素等短半減期による内部被ばく線量評価調査」成果報告書では、甲状腺計測による甲状腺の等価線量を最大65 mSvと推定しています
エミ 線量を仮定すると、小児期の放射線被ばくによる甲状腺がんのリスクについてwarp_logoなどの資料からリスクが計算できそうです
アオイ そこでのデータを用いて、7つのERRの単純平均から0-19歳について、被曝4年後からのERRを10[Gy-1]とし、甲状腺等価線量の損失余命係数を求めると、0.050[日・mSv-1]になるようです。
母親 65[mSv]の甲状腺等価線量だと損失余命は3.2日(がん死リスク:7.8×10-1)ですね
アオイ 金額にすると22万円の損失となるようです
エミ ヨウ素剤の服用することによる不利益が、これを下回れば、この場合は、服用していた方が得となるのね…

参考資料等

環境経済学的な検討例

対策の事後評価例

Peter Vardon, Aliya Sassi, Yuqing Zheng and Dileep Birur. Fukushima: U.S. Response and the Short-Term Impact on U.S.-Japan Trade in Fish and Seafood

岡 敏弘.食品放射能規制政策のリスク便益分析

保健医療経済評価

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更新日:2024年04月09日 
登録日:2014年04月04日 

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