用語 か/O

過剰診断
overdiagnosis

要約

検診で発見された疾患を治療することが本人の利益につながらないこと(検診を行うことが、予後改善やQOL改善に関して受診者に利益をもたらさないこと)。
神経芽細胞腫マススクリーニング検査は、このために中止された。
一方、それで利益を得る人もいることから、その利益を尊重し、他の不利益が大きいとしても、その検診を行うべきという考え方もあり得る。

住民の権利?

事故の影響に関して健康状態について知る権利がある

公衆衛生サービスとしての健康状態調査サービスの提供が求められうる

そのサービスを利用することの不利益をどう考えるか?

そのサービスを利用することの必要性をどう考えるか?

線量に依存

(危険を冒して)研究に貢献する権利がある

どのような研究を実施すべきか?

結局、コミュニケーション問題では?

コミュニケーションをどう図るか?

早期発見するのはよいことばかりではないの?

   
母親 がんは早期に発見するのが大切だと聞きます。検診はどんどん推進するのがよいのではないでしょうか?がんが本当に増えたかどうかは、対照群をきちんと確保して大規模な調査で確認すべきだと思います。それに、検診の不利益を強調して、救える子どもを放置することには我慢できません
にゃんこ 難しい問題だと思います。トレードオフの記事もお読み頂ければと思います。

死亡率が下がらないと過剰診断?

   
エミ 過剰診断は、Welchの定義によれば、癌が1. 全く進行しない、または縮小する 2. 進行が遅く、症状が表れる前に患者が他の要因で死亡するです。死亡率が下がらないから過剰検査 という意見もありますが、本来の意味では、ほっといても一生症状がでない癌を見つけだして治療することだと思います。
アオイ がん検診の目的ががん死亡率の低減ではなく、別のメリットをもたらすものであるとすると、死亡率が下がらず、余命を延長しなくても、何らかのメリットをもたらすのであれば、過剰診断とは言えないということになりそうですね
母親 症状を軽くすることを目指すべきという観点からは、検診で見つけることで症状を軽くすることができるのであれば、「ほっといても一生症状がでない癌を見つけだして治療すること」が過剰診断となりそうです
アオイ 結局、メリットとデメリットの比較の話になりそうですが、視点によっても異なりそう…

介入には意義があったと言えるか?

   
エミ 福島医大のガイドラインでは、成長速度やリスクの高い癌のみ治療しているはずです。よって、過剰診断ではないと思います。
母親 介入のデメリットを小さくしようとする配慮が働いているということですね
アオイ 楽観的な見通しを述べていないかどうかが言説のフェアさから問われるかもしれません…
エミ 検査を受けることで被るかもしれない不利益だけではなく、検査を受けないことで被るかもしれない不利益も伝えられるべきだと思います
母親 どっちを選んでも不利益があることを伝えられるのは辛いものがあります…

どのような疑念が持たれているのか?

   
エミ チェルノブイリ原発事故後の甲状腺がんでは、乳頭がんが多いが、組織型から低分化とも分類されうる(since the presence of a solid area can be considered to be a sufficient criterion for classifying a tumor as poorly differentiated )ことから、「aggressive potential」が示されていることや、Radiation-induced PTC may be pathologically more aggressive than sporadic PTC in age-matched groupsとの見解が示されている一方で、手術の様々なリスクを冒しても手術に踏み切るのは、それなりの理由があるはずだという疑念が持たれているのだろうと思います
母親 リスクを冒しても手術に踏み切った理由として、見つかったものがリスクの高い症例の割合が多いのではないかと考えると、リスクの高い症例の割合が大きいのは、放射線の影響によるのではないかという疑念につながっていると受け止められそうですね
アオイ このような疑念はコミュニケーションを丁寧にしないと拾い上げづらいかもしれません
母親 放射線が原因でないのであれば、予後はよいはずであり、それにも関わらずリスクを冒して手術しているのは、本当は、放射線が原因で予後が楽観できないからではないかと思ってしまいます。このことにも矛盾だと感じています。このような疑問に答えて欲しいです
エミ 手術のリスクの指摘が外部から寄せられていますが、福島県立医大は当然手術のメリットデメリットを考慮して、患者ごとに治療方針を決めているはずであり、生データも持っておらず、患者もみていない外部から憶測で判断できるはずはないと思います
アオイ 臨床的な判断の難しさですね
エミ 鈴木先生も説明されていますが、腫瘍が大きくなると手術時のリスク増えることが考えられるようです。またこれまでのところ、BRAF遺伝子変異を持つ症例の割合が大きいようですが、それがあると未分化型と判定される確率が上がるようです。
母親 難しい判断の問題であり、叡智を結集させることの意義もあると思うけど、関係者がベストの選択を追い求めている気持ちをまず理解すべきだと思う。悩んだ末の判断に対して、事情も知らずに、その判断が適切でないと軽々しく言えないのではないでしょうか…

福島県周囲の自治体でも検査を行うべきかどうか?

   
エミ 福島でも全国でも、同じガイドラインに従って診断・治療するのであれば、どちらも過剰診断ではないと思います。全国では、検査費用との比較で、検査を実施すべきかどうか という問題だと思います。
母親 検査を行うことのデメリットはコストのみなので、コストを負担できれば行うべきだという考え方ですね
アオイ かけたコストを上回るメリットが大きく、他よりも優先順位が高ければ、コストをかけるべきだとなりそうですし、そもそも、効率性だけで判断してよいかどうかも、ポイントではないでしょうか
母親 原発由来ではない甲状腺がんにも、成長速度やリスクの高い癌が、これまで(主に自覚症状による受診をもとに)知られていたよりもかなり多く存在するのであれば、それを見つけ出すための負担に応じリスクを冒すかどうかは、手術による別のリスクとのバランスで決まるものであり、ここでは原子力災害からの回復期に保健施策として実施すべきかどうかを厚生経済学による手法で判断することの出番はないのではないでしょうか
アオイ 皆さんはどう思われますか?
母親 全体として、議論でコストにこだわりすぎだと思う。国は加害者として、コストでは計り知れない責任・責務があるはずですが…
アオイ コストでは計り知れない責任・責務を果たすためには、どのようなことが求められるでしょうか

議論がすれ違っているように見えるのは

過剰診断と過剰診療?

   
エミ 繰り返しになりますが(すみません。質問が繰り返されています…)(過剰診断の)本来の意味では、ほっといても一生症状がでない癌を見つけだして治療することだと思います。そうした癌について、見つけ出してしまうこと(過剰診断)が問題なのか、偽陰性を防ぐために、精密検査に進むことまでは適切であり、結果的に (患者さんの希望もあって経過観察ではなく)治療してしまうことは、診断する側の問題なのでしょうか、あるいは治療してしまった側(過剰診療) の問題なのでしょうか。この点について、公衆衛生側と臨床側との認識の差異はないのでしょうか?
母親 過剰診断は予後改善につながらない検診での疾患発見で、評価指標としては生命予後だけではなくQOLなども考えてよいのではないかしら
アオイ 神経芽細胞腫のスクリーニングでは、結果として予後改善に寄与しない疾患を発見することが問題とされ、マススクリーニングのプログラムが取りやめられています(少数かもしれませんが、検診をやめることで不利益を被る子供もおられることも認識した重たい判断です)
母親 一次検査で陽性(ないしは疑陽性/擬陽性)であった場合は、偽陰性を防ぐためというよりも、今後の方針を決めるために、精密検査に進むことになってしまうのではないしら
アオイ 二次検査を受けないという判断は、推奨されないけれども、受けた側が選択しうるという位置づけになるのでは
母親 結果的に (患者さんの希望もあって経過観察ではなく)治療してしまうことの問題があるとすると、過剰診療の話になるので、その状況に応じた診療ガイドラインが整備されているかどうか、その診療ガイドラインに従っているかどうかを考えることになるのではないでしょうか

Experience of US Patients Who Self-identify as Having an Overdiagnosed Thyroid Cancer. A Qualitative Analysis

ガイドラインに基づいた診療で適切な診療であることが保証される?

   
アオイ ガイドラインに従っていれば、最も適切な診療を受けられたと考えられるのかしら?診療ガイドラインそのものが定期的な見直しになっていて絶対なものではないと思うけど
かず ガイドラインが絶対なものではないというのは論点にはならないように思いますが、それが重要な論点であるとのご指摘を頂きました

ガイドラインに基づいた過剰診療ではなくても過剰診断が生じ得る?

   
エミ 経過観察すべきか手術すべきかのガイドラインに沿えば「過剰診療」とはいえない。しかし現実には本来の「過剰診断」の定義に照らせば、結果として過剰な治療が行われていると推測されることになる。そうすると語感としては過剰「診療」が行われたように聞こえるのですが、その源が診断にあるのであれば、「過剰診断」と呼ぶべきである、ということなのでしょうか。
母親 (見直しが必要なのかもしれませんが)ガイドラインに則った診療が行われているので、「過剰診療」とはいえないと思います
アオイ その一方で、甲状腺検査プログラムを行うことが「過剰診断」をもたらしうるのであれば、そのことも考えるべきとなるのだろうと思います

「過剰診断」の問題は共有できている?

   
エミ 第 16 回福島県「県民健康調査」検討委員会では、鈴木先生は「ただ、発見動機が検診という超音波検査をするのでそういうふうになっている。ですから、結果は全然発見率が違うということがある」と述べられておられるのは、過剰診断は認めておられると理解すべきでしょうか。あるいは、福島医大のガイドラインでは、成長速度やリスクの高い癌のみ治療しているはずであり、「過剰診療」も「過剰診断」もないと鈴木先生は考えておられそうでしょうか
母親 論理的に考えると前段は「過剰診断」に言及していることになると思います
アオイ コミュニケーションをより改善させるために何かを考える必要はありそうかしら…

検査の実施範囲をどうするか?

   
エミ そうなのであれば、今回の原発事故との関係とは全く別に、「福島でも全国でも、同じガイドラインに従って診断・治療するのであれば、どちらも過剰診断ではないと思います。全国では、検査費用との比較で、 検査を実施すべきかどうか という問題だと思います。」という課題になるのでしょうか?
アオイ ここでの「過剰診断」は「過剰診療」ですね。検診プログラムを実施するかどうかは、それが正当であるか、有効性は高いかなどからも判断することになると思います
母親 ここでの「過剰診断」の議論は検診プログラムを他の地域でも実施することの正当性を考えようとしているので、鈴木先生が判断のポイントとしてあげられた「検査費用との比較」以前のお話しではないでしょうか
エミ 検診での不利益は甘受して研究に貢献したいという強い思いの母親もおられるので、こどもが被るかもしれない不利益の扱いを整理して、研究をより発展できるとよいのではないでしょうか。現に、福島県以外の自治体でも検査補助が進められており、研究デザインの質をよくして私たちの疑問に答える結果を出して欲しい
母親 皆さんはどう思われますか?

ここでもあるコミュニケーションの問題?

   
エミ 議論のための議論をしてしまいました…
母親 ここまでストレートに書いてしまってよいかな、と思うところもありますが、理解が深まるきっかけになれば有難いです
アオイ その一方で、ここまで込み入ってしまうと、ますます理解されにくいのでは、という危惧もあります…。基本的な理解は皆さん同じ筈なので、立場を超えて力を合わせて難問に立ち向かえると良いと思う

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参考資料等

説明例

日本医師会

知っておきたいがん検診

がん検診のメリットとデメリット

国立がんセンター

過剰診断
がん検診-何を選んでどう受ける

Choosing Wisely

Choosing Wisely
Choosing Wisely Japan

USPSTF Preventive Services Database

[Search for Recommendations](Electronic Preventive Services Selector)
Enter the following information to retrieve recommendations from the USPSTF Preventive Services Database. To view all specific recommendations of the USPSTF leave all search criteria blank and simply click "Show Recommendations". All fields are optional. The USPSTF recommends against screening for thyroid cancer in asymptomatic adults.

甲状腺がんの治療指針

日本癌治療学会

がん診療ガイドライン

甲状腺腫瘍

Active Surveillance

Incidences of Unfavorable Events in the Management of Low-Risk Papillary Microcarcinoma of the Thyroid by Active Surveillance Versus Immediate Surgery
Oda Hitomi, Miyauchi Akira, Ito Yasuhiro, Yoshioka Kana, Nakayama Ayako, Sasai Hisanori, Masuoka Hiroo, Yabuta Tomonori, Fukushima Mitsuhiro, Higashiyama Takuya, Kihara Minoru, Kobayashi Kaoru, and Miya Akihiro. Thyroid. doi:10.1089/thy.2015.0313.

   
母親 健常人(成人女性)でultrasound-guided FNABsを行うと3.5%で甲状腺がんを発見するということは、症状があって発見される場合の千倍以上だと思います
エミ 剖検で3mm以上の甲状腺がんが発見される割合は5.2%ともあります
母親 だとすると成人での甲状腺がんの有病割合はこれまでに考えられていたのよりも千倍も高く、患者の数はもっと多いのでしょうか?
アオイ となると思いますが、放射線にご心配な方の関心は小児の甲状腺がんで、それも進展しているものが少なくないということではないでしょうか
母親 100万の成人女性がいると、5万にも甲状腺がんの患者がいるとは信じられない…

甲状腺がんの総説

Thyroid Carcinoma in Children and Adolescents—Systematic Review of the Literature
チェルノブイリ原発事故と甲状腺がん

甲状腺がんの疫学的な研究

チェルノブイリ事故

Thyroid cancer after Chernobyl
Childhood thyroid cancer in Belarus, Russia, and Ukraine after Chernobyl and at present
Childhood thyroid cancer: comparison of Japan and Belarus
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放射線により誘発されたと考えられる甲状腺がんの特性

Latency Period of Thyroid Neoplasia After Radiation Exposure

PTCの予後解析

Prognosis of low-risk papillary thyroid carcinoma patients: its relationship with the size of primary tumors

過剰診断の概念を巡って

The challenge of overdiagnosis begins with its definition
Overdiagnosis in Cancer
Overdiagnosis and Overtreatment in Cancer An Opportunity for Improvement
大島明.がん検診による「過剰診断」とは何か 公衆衛生医から見た福島の甲状腺検査の問題点

福島県立医大の現状

手術の適応症例について(2015年8月31日)

過剰診療(Overmedication)

ガイドラインなどで示されている必要とされる以上の診療行為を行うこと。対義語は過小診療(undermedication)。
過剰診断は、過剰診療とは関係がなく、異なる概念。

疑陽性/擬陽性(psuedo positive)

陽性が疑われるが、そうであると明確に判定できないこと。対義語は疑陰性/擬陰性(psuedo negative)。

偽陽性(false positive)

ある疾患に罹患していないのに誤って陽性と判定すること。対義語は偽陰性(false negative)。二分法を前提としている(ことが多いと思われる)。

剖検例との比較

Franssila KO, Harach HR.Occult papillary carcinoma of the thyroid in children and young adults. A systemic autopsy study in Finland.

県民健康調査甲状腺検査のデータは、この観測データと矛盾するか?

二項分布を用いた計算

どの程度の罹患率だと、観測されがたくなるか?

dbinom(0, 20, 1/500)
[1] 0.960751
dbinom(0, 20, 1/1000)
[1] 0.9801889
dbinom(0, 20, 1/2000)
[1] 0.9900474
dbinom(0, 20, 1/3000)
[1] 0.9933544

R

検査を受けないことによる不利益?

Q7 福島県が実施する検査を受けずに、独自に検査した結果に基づき、受診した保険診療は対象になりますか?
『この事業は福島県が実施する甲状腺検査を契機として発生した保険診療に係る経済的負担を支援することが目的』と限定されています。

甲状腺がん死亡率の推移

米国での甲状腺がんの死亡率の推移

データの出典

NIH. Browse the SEER Cancer Statistics Review (CSR) 1975-2012
1995年以降は、それぞれのカテゴリーで年齢調整した甲状腺がんの死亡率の増加トレンドにあるようです。


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