用語 ち/L

直線閾値なしモデル
linear non-threshold model (LNT)

放射線のリスクが線量に比例するというモデル。線量が小さいとリスクは小さくなると考えられている。

参考資料等

低線量の扱いに関する議論が繰り返されている

Siegel JA, Pennington CW, Sacks B.Subjecting Radiologic Imaging to the Linear No-Threshold Hypothesis: A Non Sequitur of Non-Trivial Proportion.
Jeffry A. Siegel, Bill Sacks, Charles W. Pennington, and James S. Welsh. Dose Optimization to Minimize Radiation Risk for Children Undergoing CT and Nuclear Medicine Imaging Is Misguided and Detrimental
LNTに基づきcollective doseの推計が人々の認知に悪い影響を与えているに違いないとの確信が示されています。リスクと向き合うことの難しさを示したものと捉えられるかもしれません。

解説例

Warren K Sinclair(米国放射線防護・測定審議会名誉会長、放影研非常勤理事).原爆被爆者の癌発生についての線量反応曲線の形は、高線量被ばく調査から得た推定リスクの低線量被ばくへの外挿に関して重要な情報を提供する
Suminori Akiba, Cancer Risk Associated with Low-dose and Low-dose-rate Ionizing Radiation Exposure, Genes and Environment, 2013, 35 巻, 3 号, p. 80-87, 公開日 2013/09/03, [早期公開] 公開日 2013/07/01, Online ISSN 1880-7062, Print ISSN 1880-7046

  LNT is not TNT, but differences in opinions sometimes appear explosive!
Boice JD Jr. The linear nonthreshold (LNT) model as used in radiation protection: an NCRP update.
浜田 信行, ロイ E. ショア, ローレンス T. ダウアー, NCRP Commentary No. 27「最近の疫学研究の直線しきい線量なしモデルと放射線防護への示唆」の概要, 保健物理, 2018, 53 巻, 2 号, p. 47-64

その和文

放射線防護に用いられる直線しきい値なし (LNT)モデル:NCRP最新知見

NCRP Commentary No. 27

Implications of Recent Epidemiologic Studies for the Linear-Nonthreshold Model and Radiation Protection

UNSCEAR

SOURCES, EFFECTS AND RISKS OF IONIZING RADIATION
UNSCEAR 2017 Report to the General Assembly, with scientific annexes
Scientific Annexes:

Annex B: Epidemiological studies of cancer risk due to low-dose-rate radiation from environmental sources

VIII. CONCLUSIONS

287. Overall, the results of the studies of cancer risk due to radiation exposure at low dose rates from environmental radiation do not provide strong evidence for materially lower risks per unit exposure than in studies of high radiation doses and dose rates, though the findings are consistent with a range of risk estimates.

フランスアカデミー

Dose–effect relationship and estimation of the carcinogenic effects of low doses of ionizing radiation: The joint report of the Académie des Sciences (Paris) and of the Académie Nationale de Médecine

米国NRC

REPORT OF THE FRENCH ACADEMY OF SCIENCES, THE DOSE-EFFECT RELATIONSHIP AND ESTIMATING THE CARCINOGENIC EFFECTS OF LOW DOSES OF IONIZING RADIATION

研究例

交絡因子の調整などがポイントになります。
Cancer mortality and incidence following external occupational radiation exposure: an update of the 3rd analysis of the UK national registry for radiation workers
Mapping the research trends on the biological effects of radiation less than 100 mSv: a bibliometric analysis for 30 years publication
「仮説:放射線の発がん作用は間質の活性化による疾病の早期化によるのではないか」と題する論文が British Journal of Radiology誌に掲載されました
Lubin, J. H., Adams, M. J., Shore, R., Holmberg, E., Schneider, A. B., Hawkins, M. M., Robison, L. L., Inskip, P. D., Lundell, M., Johansson, R., Kleinerman, R. A., de Vathaire, F., Damber, L., Sadetzki, S., Tucker, M., Sakata, R., & Veiga, L. (2017). Thyroid Cancer Following Childhood Low-Dose Radiation Exposure: A Pooled Analysis of Nine Cohorts. The Journal of clinical endocrinology and metabolism, 102(7), 2575–2583.

Estimates of threshold dose ranged from 0.0 to 0.03 Gy, with an upper 95% confidence bound of 0.04 Gy.

研究の背景

放射線を用いた診断や治療法が増加し、特に小児や放射線感受性の高い甲状腺での放射線の影響が懸念されている。

目的

甲状腺への放射線の線量が0.2 Gy未満の相対リスク(RR)の傾向性の評価;しきい線量の証拠;線量反応の修飾因子として考えられるもの(性、被曝時年齢、被曝後の時間など)。

研究デザイン

小児期の外部放射線被曝が個別の評価され甲状腺がんのリスクが研究された9件のコホート研究のデータをプールした。含めた研究は1000人以上の放射線曝露者を対象にしたか甲状腺がんの症例が10人以上のものとした。解析に用いたデータは0.2Gy未満の放射線曝露者に限定した。

研究への参加者

対象となったコホートには、小児がん生存者(n = 2)、良性疾患の治療を受けた小児(n = 6)、および日本で被爆したが生存した小児(n = 1)が含まれた。放射線曝露群での甲状腺がんの症例数は252例で観察人年は2,588,559人年であり、非照射群での甲状腺がんの症例数は142例で1,865,957人年であった。

介入

本研究では介入はなかった。

主要アウトカム評価項目

甲状腺がんの罹患率。

結果

<0.2Gyおよび<0.1Gyでは、RRは甲状腺線量とともに増加し(P < 0.01)、線形性からの有意な逸脱はなかった(それぞれP = 0.77およびP = 0.66)。
閾値線量の推定値は0.0~0.03Gyであり、95%信頼区間の上限は0.04Gyであった。
線量反応の増加傾向は被ばく後45年以上持続し、被ばく年齢と到達年齢が若くなるほど大きくなり、性別や化学療法の回数では違いが見いだせなかった。

結論

小児の低線量放射線曝露により誘発される甲状腺がんリスクの線量との関係は、放射線防護において使われている「合理的に達成可能な限り低く」の考え方を用い、直線仮定を適用することが最も妥当であることが再確認された。

IARCのTechnical Publication No. 46でも取り上げられています。

心理面

中谷内 一也.閾値の問題をめぐる社会心理学的アプローチ

判例

安全な場所で教育を受ける権利の確認等請求事件( 平成26(行ウ)8)

安全の定義

原告

当該学校の教育環境は,本件原発事故後の現在の状況では,本件行訴原告らの健康の維持に悪影響を及ぼす程度の放射線に被ばくする具体的な危険がある旨主張

裁判所の判断

本件行訴被告らが実現すべき具体的結果が無限定といわざるを得ない。
本件行訴被告らがすべき 作為はもとより,そもそも実現すべき結果が具体的に特定されていないのであるから,訴訟物が不特定であることは明らか

人格権に対する違法な侵害行為に当たるか否かの検討

裁判所の判断

学校環境衛生基準には,放射性物質についての定めが置かれていないが,学校の保健安全の観点からすれば,これについても必要な考慮をすべきことは明らかであり,その具体的な措置等については,放射線防護に関する他の関係法令等にも照らし,学校の保健安全に関する教育委員会の専門的かつ合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。

ICRPからの引用部分

「電離放射線は照射された組織に確定的影響と確率的影響の両方を引き起こす。放射線防護は,線量限度をしきい値以下に設定することにより確定的影響を避けることを目的とする。確率的影響は,低い頻度ではあるが非常に低い線量においても起こると考えられるため,すべての線量域で考慮されてきた。」(S5)
科学的仮説としての LNT 仮説と放射線防護モデルとしての LNT モデルとは,厳密には区別されるべきであるとされる
委員会は,このいわゆる直線しきい値なし(LNT)のモデルが,放射線被ばくのリスクを管理する最も良い実用的なアプローチであり,“予防原則”にふさわしいと考える。委員会は,この LNT モデルが,引き続き,低線量・低線量率での放射線防護についての慎重な基礎であると考える。」(36)
「認められている例外はあるが,放射線防護の目的には,基礎的な細胞過程に関する証拠の重みは,線量反応データと合わせて, 約100mSv を下回る低線量域では,がん又は遺伝性影響の発生率が関係する臓器及び組織の等価線量の増加に正比例して増加するであろうと仮定するのが科学的にもっともらしい,という見解を支持すると委員会は判断している。」(64)
「委員会が勧告 15 する実用的な放射線防護体系は,約100mSv を下回る線量においては,ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮定に引き続き根拠を置くこととする。この線量反応モデルは一般に“直線しきい値なし”仮説又は LNT モデルとして知られている。この見解は UNSCEAR が示した見解(略)と一致する。
したがって,上記線量限度と参考レベルの間には,線量の差があるものの,矛盾するものではないと解される。 (3) 本件行訴被告らは,以上の点も考慮した上で,本件行訴原告らが通う学校の保健安全に関する裁量権を適切に行使すべきことになる。

主張の要点

(1) 本件行訴原告ら

LNT モデルは,科学的に立証されており(しきい値が存在することは,その存在を主張する被告らが立証すべきである。),実効線量が年1mSv 以下の追加被ばくであっても,単純比例で過剰がんや遺伝性疾患のリスクを増加させるから,不必要な被ばくであれば許容されない。

以上を踏まえた検討

(1) 2007年勧告は,低線量域(約100mSvを下回る線量域)においても健康影響のリスクを想定する LNT モデルについて,一定の科学的な基礎を有するものとしてこれに基づいて放射線防護の在り方を検討するという立場であり(ただし,線量・線量率効果係数(DDREF)を合わせて用いている。),その上で,放射線防護の原則とされている「正当化の原則」,「防護の最適化の原則」及び「線量限度の適用の原則」(第 3節第1の5(2)オ)を考慮し,1計画被ばく状況における線量限度(公衆被ばくに対しては,実効線量で年1mSv。ただし,定められた5年間にわたる平均が年1mSv を超えないという条件付きで,年間の実効線量としてより高い値も許容される。(245)),2緊急時被ばく状況における参考レベル(予測線量20mSvから100mSvのバンドの中にある。 (278)),3現存被ばく状況における参考レベル(予測線量1mSv から2 0mSv のバンドに通常設定すべきである。(287))を提案している。これは,低線量域の被ばくのリスクを考慮しつつも,緊急時被ばく状況又 は現存被ばく状況において,参考レベルを用いて被ばく線量の低減を図り,防護の最適化を目指すものであり,不合理なものとは認められない。
本件行訴被告らは,以上の点も考慮した上で,本件行訴原告らが通う学校の保健安全に関する裁量権を適切に行使すべきことになる。
なお,本件行訴被告らが援用する被告国の主張は,約100mSvを下回る低線量域においては,有意なリスクの上昇が検出できないとの趣旨であり,「リスクがない」との趣旨で主張しているわけではないと解される(乙B10の2〔京都地裁柴田義貞証人尋問調書〕41頁参照)。

論争の試み

Proposer D. J. Brenner, Opposer O. G. Raabe, Moderator J. C. McDonald. Is the linear-no-threshold hypothesis appropriate for use in radiation protection? Favouring the proposition. Radiat Prot Dosimetry. 2001;97(3):279-82; discussion 285.
Doss, M., Little, M. P., & Orton, C. G. (2014). Point/Counterpoint: low-dose radiation is beneficial, not harmful. Medical physics, 41(7), 070601.

論争の解説

Sykes, P. J. (2020). Until There Is a Resolution of the Pro-LNT/Anti-LNT Debate, We Should Head Toward a More Sensible Graded Approach for Protection From Low-Dose Ionizing Radiation. Dose-Response.
Mossman K. L. (2012). The LNT Debate in Radiation Protection: Science vs. Policy. Dose-response : a publication of International Hormesis Society, 10(2), 190–202.




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更新日:2022年06月25日 
登録日:2014年03月11日 

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